ライフ 人口・少子高齢化
「死」が怖い理由〜母をダイナマイト心中で亡くした僕が見つけた答え
「死の疑似体験」をして感じたこと
末井 昭 プロフィール

そして、物語が進んでいくたびに、先に書いた20枚のカードの、自分が大切に思っているものを少しづつ捨てていきます。具体的には、そのカードを丸めて床に捨てます。

最初は「物」から捨てました。いざとなったら、当たり前ですが、自転車もぶら下がり健康器もいりません。

半ばいい加減に書いたカードもあったので、最初のうちは捨ててもいいものはいっぱいありましたが、だんだんと迷うようになります。捨てられないカードは、やはり「人」です。

最後に残ったカードは「妻」でした。それは最初っからわかっていたことですが、少しづつ自分にとって大切な物や人を捨てていったあとなので、妻を大事にしなければいけないという気持ちになったりしました。それだけでも来た甲斐がありました。

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「死の疑似体験」が終わり、会場の照明が明るくなり、恐れていたディスカッションのようなことが始まる様子です。端から順番に4人づつが向かい合い、感想を言わなければいけません。

僕たちのグループは女性2人、男性2人で、僕以外はみなさん若い人です。順番に感想を言ったのですが、アガっていたので、みんなが何を話したか覚えていません。僕は確か、「妻」が最後に残ったことを話したと思います。

最後は全員が丸くなって、つまり向きを反対にして、最後に残ったカードはなんだったかを発表しました。一番多かったのは「母親」でした。たぶん半分ぐらいがそうだったと思います。

「妻」と答えた人は、僕を入れて2人でした。独身の人も多かったと思いますが、案外夫婦の仲は冷えているのかもしれません。

 

面白かったのは、僕の隣りにいた女性が「ハンバーガー」と答えたことでした。最初何を言ってるのかわからなかったのですが、「ハンバーガーが好きだから」と言うので、そういうこともあるのかと思いました。そして、この人は20枚のカードにいったい何を書いたのか、無性に知りたくなりました。

「自分がやりたいこと」と答えた人がいました。最初、それはカードに書く事柄の質問ではないかと思いましたが、考えてみれば、自分のやりたいことが奪われることはとても辛いことです。

そして思ったことは、自分にとって一番大切なものは、結局は「自分」ではないかということです。

「死」が怖い本当の理由は、その「自分」と永遠に別れなければならないということです。それを「死ぬということは自分がなくなるんだから、死についての悩みを持ちようがない」と平然と言える養老孟司さんは、やっぱりすごいと思ったのでした。

母親のダイナマイト心中から約60年――衝撃の半生と自殺者への想い、「悼む」ということ。伝説の編集者がひょうひょうと丸裸で綴る。笑って脱力して、きっと死ぬのがバカらしくなります。
末井昭(すえい・あきら)文筆家・編集者。1948年、岡山県生まれ。1974年にセルフ出版(現・白夜書房)の設立に参加。「写真時代」「パチンコ必勝ガイド」などの雑誌を創刊する。2012年、白夜書房を退社したあとフリー。主な著書に『素敵なダイナマイトスキャンダル』(映画化進行中)、『自殺』(第30回講談社エッセイ賞受賞)などがある。5月に『結婚』『末井昭のダイナマイト人生相談』の2冊を上梓する予定。ペーソスというバンドのサックス担当。