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「死」が怖い理由〜母をダイナマイト心中で亡くした僕が見つけた答え

「死の疑似体験」をして感じたこと
末井 昭 プロフィール

「死の疑似体験」の成り立ちを話したあと、暗記カードぐらいの大きさのカードが5枚づつ配られました。そしてこのカード1枚づつに、自分の大切な物を書くように言われました。

あれこれ考えたのですが、たいがいの物はお金があれば買えるわけだから「お金」と書いたら、あとは何も思い付きません。

そういうことではなく、自分が愛着を持っている物ということではないかと気付いて、使っているパソコン(これまで書いた原稿や、いま書いてる原稿などが保存されているので)、サックス(30年前に買ったセルマーで、いろいろ思い出がある)、家(中古のプレハブ住宅ですが、なんとなく居心地がいい)、ぶら下がり健康器(机に向って原稿を書いていると肩こりや腰痛に悩ませられるので、ときどきぶら下がっている)、自転車(暖かい日には少し遠出などしている)の5つを書きました。

次にまた違う色のカードが5枚づつ配られ、今度は自分が大切にしている自然や思い出を書くように言われました。

最初に書いたのは、田舎にある母親の墓でした。これは意外でした。普段お墓のことなんて考えたことがないのに、『自殺』という本を書いたあと、やたらと母親のことを書きまくっているので、墓参りに行ってないことが気になっているのかもしれません。あるいは、母親の霊が呼んでいるのでしょうか。

ちなみに、母親は僕が7歳のときに近所の若い男と不倫をし、その男を道連れにダイナマイトで心中しています。
 
あとは、自然というと海もいいし空を眺めるのも好きだし、公園もいいし、ということで、海、空、公園、花と書きました。書いてから、子どもが書いたみたいじゃないかと自分で思ったりしました。

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次にまた違う色の5枚のカードが配られ、自分の大切な人を書くように言われました。まあ、最初は妻です。そして友達です。

しかし、友達の名前を書いていくと全部埋まってしまいます。1人選べと言われても、そういう順列は自分のなかにないので、とりあえず友達は外して、弟、義母、小学校時代お世話になった先生、主治医の先生の名前を書きました。

最後に配られた5枚のカードには、自分の大切な活動、行動を書くよう言われました。

これは難しい。だいたい僕は、自分の意思で行動していないように思うからです。仕事は人から頼まれたことをやってるだけだし、旅行などは妻が行きたいというところに一緒に行っているだけです。

あれこれ考えて、まず初めに「人のためになること」と書きました。次に「人を喜ばすこと」、それから「人から頼まれたことをすること」と書いて、あと2つがなかなか思い浮かばなかったのですが、「ベストセラーになる本を書く」「所属しているバンドが売れる」と書いたのですが、この2つはただの願望になってしまいました。

 

大切な人や物を捨てていく

そしていよいよ「死の疑似体験」が始まりました。

静かな音楽が流れ始め、講師が穏やかな口調で、「あなた」に病気が発見されたことを告げます。どういう病気なのか最後まで明らかにされないのですが、これはもう末期がんに違いありません。

僕も一度がんになっているので、がんを告知されたときの気持ちはよくわかります。僕の場合はまだ初期のがんだったのですが、そのとき「なんで僕が?」という言葉が、無意識に出てしまいましたから。

講師が話す物語は、病気が発覚し、それが重傷だということがわかり、入院し、もう助からないことがわかるという、誰もが自分の「死」を考えたとき一番に頭に浮かぶことです。