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週刊現代

長谷川穂積 世界3階級を制した最強ボクサー「王者の引き際」

引退後初のロングインタビュー

伝説の男は王者のまま、グローブを置いた。その理由を初めて語る――

負けたら、ほんまに自殺しようかな、と

昨年12月に引退を表明した長谷川穂積(36歳)は、日本ボクシング史に燦然と輝く足跡を残したボクサーである。

WBC世界バンタム級王座を10度防衛、1階級飛び越えての2階級制覇。しかもピークを越えても現役を続け、「長谷川はもう終わった」という声も聞こえる中の昨年9月、大方の予想を覆して約5年ぶりに世界チャンピオンに返り咲いた。

そんな王者が、「あそこで僕のボクシング人生は終わっていたんですよ」と語る重要な試合がある。2010年11月、2階級制覇をかけて挑んだWBC世界フェザー級王座決定戦、フアン・カルロス・ブルゴスとの一戦だ。

「ちょうど母(裕美子さん、享年55)が亡くなって1ヵ月でした。これで負けたら、母が死んだのは僕のせいや、試合で負けたら母の死は無駄になってしまう。全然関係ないけど、僕の中ではそうだったんです。負けたら、ほんまに自殺しようかな、というくらいの気持ちやったんです」

裕美子さんは長谷川が'05年に世界王者になった翌年、大腸がんを発病。以降、闘病生活を送りながら、長谷川の試合には必ず応援に駆け付けた。息子の勇姿を生きる支えとし、病と格闘した。長谷川が母の死に責任を感じるには、こうした背景があった。

 

決死の覚悟でリングに上がった長谷川はブルゴスを退け、再び王者となった。

「ひとつのストーリーが終わり、燃え尽きて、真っ白になりました。ほんま、あそこでやめていてもよかったかもしれない。もうその先、あれ以上の達成感は得られないとわかっていたので」

続く初防衛戦では、強豪ジョニー・ゴンサレスに4回TKOの完敗。現役生活に幕を引く絶好のタイミングとも思われたが、長谷川は再びリングに戻る決断を下した。

「最初に世界戦で負けたときは悔しくて勝手に涙が出たんです。でもゴンサレスに負けたときは悔しくなかった。そんな自分が悔しかった。もう一度、気持ちをしっかり作り、心と体を一致させて試合をしたいと思ったんです」

'14年に再び世界挑戦のチャンスを得るも7回TKO負け。その後も不安定な試合内容が続いた。もうダメなのか……。もがき続ける長谷川はひとつのアドバイスをきっかけに、事態を好転させた。

「ずっと昔の戦い方を頭に置いていたんですが、ある方に『昔の戦い方なんてできるわけない。いまの年齢に合った戦い方をすればいい』と言われて、あ、そうかと。確かに一流の選手はそう。野球のイチローさんも年齢に応じて毎年、バッティングを変えていますよね。そこに気が付くことができたのが大きかった」

長谷川は己のボクシングに微調整を施し、生前の母が好きだったという「打たせないボクシング」を実行した。心と体がようやく一致し、奇跡とも言える世界王座返り咲きと、3階級制覇を達成したのである。

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