社会風俗

「色街」の過去と現在を追って、湿った路地裏をさまよう

失われゆく記憶
中島 丈博 プロフィール

前二ヵ所と違って、飛田遊郭跡は種々曲折はありながらも現在も色街として機能している。『さいごの色街飛田』は12年もの年月に亘り身を投じて取材した読み応えのあるルポルタージュ。

「売春やない。お客さんを好きになって恋愛してるだけ」という建て前は、30年ほども前に書いた、主婦売春をテーマにしたドラマで東京のデートクラブを取材したときの相手の言い分とまったく同じだった。

知り合いの年下女性をサクラに仕立てて「万一、お客とやらなければならないことになれば、私が代わりにやる」とビビる相手の尻を叩き楼主との面接に連れて行く。軽いノリを装いながらも体当たりの重層的で多彩な取材のおかしみと面白さ。

そして現在はと言えば、「15分のお仕事で給料5千円」等のネットの求人サイトで、性サービス氾濫の中で本番に抵抗のない女の子が続々と飛田に流れ込んでいく。

遊郭や赤線跡の放つ強烈な磁場に著者たちは否応もなく惹き付けられ、読者は売春というものの多層的実相を突き付けられて、その営為の持つ永遠の矛盾に向き合わざるを得なくなるのだ。

それにしても、ネット情報によれば、中村遊郭跡の豪壮な妻入り式の娼楼が中央玄関の仰々しい太鼓屋根もそのままに、現在ではデイ・サービスセンターに使用されているというのだから、これも強烈な磁場の為せる皮肉と言うべきであるのか。

週刊現代』2017年3月4日号より