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ライフ アメリカ
海外では絶対通じない!? 英語のフリをした意外な「和製英語」たち
土着化した国際語を愉しむ

オートバイ、ハワイ、サーフィンの小説を書く作家、というイメージの強かった片岡義男が1997年に刊行した『日本語の外へ』は、英語で生きる人々の論理を追うことで日本語を鮮やかに逆照射させる論考として話題を攫った。

あれから20年、片岡義男が身近なものを出発点にして、言葉や創作について考える新連載。毎週日曜に更新予定なのでお楽しみに!

思わず笑ってしまう和製英語

1月なかば、平日の午後、友人とカフェで差し向かい。一杯のコーヒーの時間だった。上出来のコーヒーに友人は笑顔となり、

「Since 2016と書いてある店を見ましたよ。愉快でしょう」

と言った。

2016年は、つい昨年ではないか。それにSinceがつくようになったか、と僕は思った。

「そこまで来たか」

「来ました。と言うよりも、すでに来てます、とっくに」

店舗の屋号の下に、創業年を示す表記として、Since 1958とかSince 1965などと、表記するのが流行のようになってから、二十年にはなるだろうか。いまはもう流行の域をとおり過ぎ、きまりごとのひとつとして、なかば自動的に踏襲されている。

Sinceと2016は釣り合わない。見たとたん、思わず笑う。1816くらいの年号なら、Sinceとならんで調和する。二百年前だ。江戸幕府は文化13年という時代で、イギリスから琉球に船が到着し、我々と貿易をしようではないか、などと幕府に提案していた。その頃の創業なら、Since 1816できれいにおさまる。

日本の店舗といえば、SinceとならんでCloseが、すでに広く知られている。本日は休業です、という意味で、Closeと書いたカードをドア・ノブに掛けておく、という景色をいまもあちこちで見る。表記だけではなく音声でも、「今日はお店はクローズなんですよ」などと、ほとんど日本語だ。

今日は店は休みで閉じている、という意味にしたければ、Closedであり、Closeだけならそれは、閉じろ、という意味にしかならない。基本中の基本だが、そんなことはいっこうにお構いなく、いまでもCloseとClosedは半々くらいだ。そして友人が笑いながら報告してくれたSince 2016にくらべると、Closeには懐かしさすら覚える。

Closeの反対はOpenで、これは正しい。Yes, we are open.と印刷された、アメリカで買って来たカードがドアに掛けてある景色は、日本で見るときまり悪い、と言った人がいた。その気持ちはよくわかる、と僕も言っておこう。

「スリム」と「アップ」は相反する言葉

2016年の冬の始まりの頃、電車のなかで見たポスターには、Find my Tokyoと英文があり、その下に、メトロでみつかる、わたしの東京、と日本語が添えてあった。

Find my Tokyo.だけなら、みつかるわたしの東京、という意味には絶対にならない。

察してくれる人は、いまならいるだろう。私の東京を見つける、という意味を伝えたいのに、私の東京を見つけろ、と言ってしまったのだ、という正しい推測をしてくれる人の存在を前提にするなら、Find my Tokyoは、私の東京を見つける、でもあり得る。

Findは、日本の英語では、見つける、なのだ。Closeは、本日休業、なのだ。

痩せるためのスポーツ・ジムのような施設の広告に、スリム・アップという言葉を見て驚いたのは、2016年の夏だった。

スリムとアップとでは、まったく相反する言葉がひとつずつ、向き合っていることになる。なんの軋轢も引き起こさない正用法では、スリム・ダウンだろう。なにかを達成する、という意味合いで、アップという片仮名語はすでに日本語だと言っていい。スリムになることをなしとげるのだから、それはスリム・アップとなるのだ。