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北朝鮮
金正男殺害、北の「暗殺セオリー」にないズサンな手口が物語ること
追い詰められた金正恩体制!?

世界を震撼させた金正男氏殺害事件。北朝鮮の関与はあるのか。北朝鮮でいったい何が起こっているのか。不確かな情報や憶測が入り乱れる中、朝日新聞ソウル支局長で、2月21日に『金正恩の核が北朝鮮を滅ぼす日』を上梓する牧野愛博氏の緊急レポートを掲載する。

日韓の情報筋が漏らす「20年前の事件」との関連は。そしてこの一件が示す、北朝鮮内部で起こっている異変とは――。

二つの事件の類似は偶然か?

「偶然なのかもしれないが、2つの事件には政治的なつながりを感じる」

金正日総書記の長男、金正男氏殺害のニュースを知った日韓の情報関係筋から、同じ証言を聞いた。金正男氏が殺害された、2月13日という日付についてのことだ。

関係筋らが比較した事件は20年前の1997年2月15日、ソウル市郊外で起きた。同日夜半、自宅アパートに戻った男が正体不明の人間に銃撃されて死んだ。被害者は、金総書記の甥で、正男氏のいとこにあたる李韓永氏だった。

犯人は見つからず迷宮入りになったが、2011年9月にソウルで起きた脱北者の暗殺未遂事件で、やはり脱北者だった実行役の犯人が、命令役の北朝鮮当局者から「李韓永の事件も、我々が企画した」と聞かされていた。2つの事件は、いずれも2月16日の数日前に起きた。16日は金総書記の誕生日だ。

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李氏は事件当時、ロイヤルファミリーの実態を暴く著書を刊行し、韓国メディアのインタビューも受けていた。

一方、金正男氏の場合、韓国の情報機関、国家情報院が今回の事件後に行われた国会報告で、「5年前から暗殺計画があった」と報告している。

これは2012年2月、中国政府が正男氏に対して、北朝鮮の暗殺の危険を伝えていたことを根拠にしている。同時に「暗殺は、必ず達成しなければいけないスタンディング・オーダー(継続的な指示)だった」ともしている。

 

ただ、正男氏を巡っては昨年ぐらいから、西側諸国に亡命するといううわさが持ち上がっていた。国情院は報告で「正男氏に亡命の動きはなかった」と報告したが、事の真偽はともかく、北朝鮮が「亡命の動きがある」と判断して、暗殺の遂行を急いだ可能性があるという。

2つの事件は、金正日総書記の生誕記念日を「祝う」ための犯行であったと、先の日韓の情報関係筋は読んだわけだ。

それでも、2つの事件はあまりにも対照的だ。

李韓永氏殺害事件の場合、犯行を目撃した人は誰もいなかった。夜半に自宅に戻る直前を狙うという、最も目撃者が少ないシーンを選んだ綿密な犯行だった。

一方、金正男氏殺害事件では大勢の目撃者がいた。韓国に住む元北朝鮮工作員によれば、正男氏の事件では北朝鮮の犯行を思わせる部分もあるが、まったく理解できない部分も多いという。