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大震災で「格差」を忘れた日本人~いったい何が起こったのか
この国が直面する喫緊の課題

東日本大震災から、6年が過ぎた。この震災の前後で、日本の社会は大きく変わった。それとともに、人々の関心も大きく変わった。災害と原発の問題に人々の関心が集まるようになった反面、忘れられがちになった問題も少なくない。

そのひとつが「格差」の問題である。

思えば震災前は「格差社会」が流行語となり、「格差社会論」と呼ばれる言説が世に満ちあふれていた。毎月何冊もの本が出版され、中身は玉石混淆だったとはいえ、それぞれに一定の読者を獲得していた。格差と貧困が現代日本の解決すべき課題だということが、共通認識となりかけていた。

ところが震災の後になると、さっと潮が引いたように、「格差社会」という文字を見かけなくなった。どうでもいいことだが、震災前には私のもとにも格差社会に関する本を書いてくれという依頼が続々と舞い込んだのに、最近ではさっぱりで、こちらから提案しても渋い顔をされることが多い。

 

震災で格差を忘れた日本人

人々の意識に大きな変化があったことは、世論調査の結果からも明らかだ。一例として、内閣府が毎年行っている「国民生活に関する世論調査」の結果を見てみよう。

この調査は、「お宅の生活の程度は世間一般からみてどうですか」という設問を設けていることでよく知られている。回答は「上」「中の上」「中の中」「中の下」「下」の5つから選ぶことになっていて、マスコミなどでは「中の上」「中の中」「中の下」の合計が「中流意識」と呼ばれることが多い。

真ん中3つを合計するのだから比率が高くなるのはあたりまえで、これを「中流」とみなすのは問題だが、それでも人々の意識の変化をみるのには役に立つ。

たとえば「上」「中の上」と回答するのは自分を「人並み以上」、「中の下」「下」と回答するのは自分を「人並み以下」と考えているわけだから、その比率は格差の動向を反映する。実際、1990年代後半以降には、「中の中」が減少して、「人並み以上」と「人並み以下」がともに増加した。格差拡大が人々の意識にも表われたのである。

ところが震災後になると、「中の中」の比率が跳ね上がり、その分「人並み以下」が減少した。もちろん、震災後に格差拡大が縮小して低所得者が減ったわけではない。

2014年夏に行われた「所得再分配調査」によると、日本の経済格差は震災前の2008年に比べ、年金の支給額が増えたことなどから中高齢者の一部でやや縮小したものの、非正規労働者と失業者の増加を反映して若年層で明らかに拡大したため、全体としては高水準のまま横ばい状態にある。

それでは、何が起こったのか。

国民生活に関する世論調査によると、現在の生活について「満足」と答える人の比率は、21世紀に入ってから低迷を続けていたが、震災のあった2011年から顕著な上昇傾向を示し、2013年には70%を越えた。

震災があり、不景気も続いているのに、人々の生活満足度が上がったというのか。人々の政府への要望をみると、「防災」が大幅に増えた反面、「高齢社会対策」「雇用・労働問題への対応」が大幅に減っている。

どうやら震災は、日本人の意識に次のような変化をもたらしたらしい。

震災で命を落としたり、家を失ったり、避難生活を余儀なくされている人々に比べれば、自分たちはまだまだマシだ。自分を「下」だなどとは考えないようにしよう。老後の生活や雇用、そして格差の問題などは、震災復興と防災に比べれば二の次だ、と。

格差社会論が広く受け入れられる素地は、こうして失われたのである。