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トランプの「メキシコの壁」をドイツは絶対に批判しない
目下の課題は「難民のEU上陸」阻止

「壁」は世界中に存在する

トランプ大統領のイスラム敵視の言動を、ドイツが激しく非難している。反民主的だ、人種差別的だ、アメリカらしくない等々。

ドイツ政府は一昨年、メルケル首相の鶴の一声で、中東難民を無制限に入国させ、自らの人道的態度を世界に誇った。そして、それを褒め称えたのがドイツメディアだったから、今、トランプ批判には、両者ともヒステリックなほど力がこもる。

ところが、メキシコ国境に壁を作る話の方はほとんど無視。何といってもドイツは、「壁」にかけては前科がある。下手に口を出すのは得策ではないのだろう。

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ちなみにドイツの壁といえばベルリンだけが有名だが、忘れてはいけないのはそれ以外の場所だ。

当時、東西ドイツの国境は1378kmに及んだ。しかし、その全長にベルリンのような壁が立っていたわけではなく、国境は石ころさえない広大な立ち入り禁止の無人地帯で、そこに130万個の地雷が埋められ、しかもあちこちに、動くものはすべて撃ち抜く自動射撃装置が配備された。東ドイツはこの施設を、「世界で一番優れた安全システム」と誇った。

それに比べて、メキシコの壁はそこまで殺人的ではないだろう。抜ける方法はいろいろありそうだが、おそらくトランプ大統領もそんなことは百も承知で、壁の建設自体を景気刺激策として捉えているに違いない。

 

かつてイギリスの経済学者ケインズは、「失業者をそのままにして失業手当を払うより、その分の紙幣を瓶に詰め、失業者の半分を雇って穴を掘って埋めさせ、残りの半分にそれを掘り出させる方が、景気対策として有効である」と主張したというが、メキシコの壁と聞くと、その話を思い出す。セメント業界や建設業界では、ニューディール政策の再来かという期待感さえ高まっている。

そもそも壁やら柵は、経済格差のあるところには付き物だ。

80年代、私はベルリンだけでなく、香港と中国(深圳)の国境の柵も見た。東ドイツでは自国民が逃げないよう、香港では中国からの侵入者を防ぐため、どちらも自動小銃を抱えた兵隊が見張っていた。

また今でも、アフリカ北部のスペインの飛び地、セウタとメリリャには、見るも恐ろしいような柵がある。

EUに入りたい一心、アフリカ人がその柵を命をかけて越えようとしている様子は、インターネットで見ることができる。震えの来る映像だ。

また、その他にもEUにはすでにあちこちに柵やら塀がある。