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浅草には昔、おじいちゃんのゲイバーがあった

「何だコレ!」みたいな光景がたくさん

絵になる作家である。それもそのはず。戌井昭人は、文学座研究所を経て、自らパフォーマンスグループを旗揚げした経歴の持ち主なのだ。そんな彼の著作『ぴんぞろ』が、初めて講談社文庫に入る。今冬に野間文芸新人賞を受賞して勢いを増す、気鋭作家の肉声をお届けしよう。

Photo : Tomoyasu Kanazawa

文/松木 淳

戌井昭人です。『ぴんぞろ』という文庫本が出ます。〝ぴんぞろ〟とは、チンチロリンというギャンブルで、サイコロの目が●●●(1・1・1)とそろったことをさす言葉なんですけど、このチンチロリンをきっかけに男が温泉場に流されたり、浅草をウロついたりと、いろんなところをウロウロするお話です。どうぞよろしくお願いします。

日本一身近な純文学作家

──『ぴんぞろ』のみどころは?

戌井 現代のあるところに、時間からも取り残されたような凹んだ場所があって、普通に生活していると見えなかったりするんだけど、(この本には)そんな見えない場所を見ることができる、のぞくことができる、そういう魅力があると思っています。

──この作品で伝えたかったことは?

戌井 明確に伝えたいテーマというものはありません。ただ、凹んだ場所を見てみたいとか、自分は好きだとか、気になるとか、そういう場所をお見せしたかった……。どうでもいいガイドブックという感じですね(笑)。

──どんな人に読んでほしいですか?

戌井 もう、全部(笑)。ていうか、若い人も年取った方も……。若い人だったらこんなところがあるのかって驚いたり、年取った人は懐かしいなと思ったり、ですね。

女性も男性も、どちらもみなさんに読んでほしいです。ターゲットみたいなものはないです。でも「ヤダなこういう世界」って思う人もきっといますよね(笑)。

──「凹んだ」というのは「非日常」という意味?

戌井 はい。一般社会からストンと抜け落ちたような場所で、世間の時間の流れからはズレてるようなところ。でものぞき込んで見ると、そこには意外と元気な人の息づかいがあって、「やってますよ!」みたいな。

(表題作「ぴんぞろ」の舞台となった)浅草と地方の温泉街はどちらも凹んでて。そんな場所を舞台にしました。

──全編軽妙なタッチですが、これは意識的にそうしたのですか?

戌井 そうです。ある登場人物の心の内では葛藤があり、何らかの動機でどちらかを選択してそれを行動に移した、という一連の流れがあるとします。

ここから内心の描写をなくして、人間も風景のひとつとして見てみたかったんです。なんか薄っぺらというか、まったいらな感じでワァーって動いていく……ってコレって映画ですよね(笑)。

でもそういう感じの物語にしたかった。その点は他の作品より強く意識しました。

サイコロふって人生がすごろく

──本作の主人公(今井)と戌井さんとの共通点は?

戌井 「ヌ」を「マ」に替えただけの安易な名前なんですけど(笑)。最初は映画の脚本を書いているという主人公が、浅草に行ったことをきっかけにどんどん流されていって、終いにはよくわかんない地方の温泉場に辿りつきます。

僕自身は主人公みたいにそこまで流されたことはないけれども、たまに「もうどうにでもなれ」っていうときってあるじゃないですか。なんか流れに身をまかせたい、流されたいっていう願望。そんな気持ちを主人公に託したというのはありますね。

──ギャンブルはされますか?

戌井 そんなにやらない、競輪ぐらいです、ってやってるっていうのかコレ(笑)。この間小田原競輪場行ったばっかりだもんな。

ま、のめり込んではやっていない。パチンコとかもやらないですし。競輪場が好きなんです。食べ物もおいしいし、競輪場に行ってウロウロしているのが好きです。

──博才はありますか?

戌井 昔外国のカジノでルーレットをやって大当たりしたことはありましたね。もう気持ち悪いくらいベットが的中して。

でもそのときは風邪を引いていて「早く帰りたい」と思ってやってたんで、そういう欲のないときにそういう結果が現れるのではないでしょうか、ハイ。