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『テルマエ・ロマエ』作者「気に入った本は何度も繰り返し読みます」
この10冊で極貧生活を乗り切った

マルケスが繋いだ縁

気に入った本は何度も繰り返し読みます。今回は読み返した回数で順位を付けました。

百年の孤独』はイタリアに留学していた20歳の頃、よく行っていた文芸サークルで、アルゼンチン人の詩人に教えてもらった本です。

この本は3回ほど読んではじめて、複雑な人物相関が頭に入ってくる。最近は読者に至れり尽くせりの親切なエンターテインメントが多いですが、マルケス作品はその対極にあります。右脳をフルに使って、自分の想像力の旺盛さを楽しむような本ですね。

南米が舞台になっているのでエキゾチックではあるのですが、基軸になっているのは人間の家族や組織、言わば群衆や国家、そして孤独など、普遍的な人のあり方です。

深いのに、コミカルな表現が鏤められているのも素晴らしい。戦争も人間の醜い本質も、マルケスは独特のユーモアを駆使して、俯瞰して描くんです。この表現姿勢を私はとても尊敬しています。

 

この本には一つ印象深い思い出もあります。故中村勘三郎さんがリスボンを訪れた際にお会いしたら「今、凄く面白い本を読んでる」と。それが『百年の孤独』でした。私も負けてられないと2日間、マルケス談義で大盛り上がり。「マルケスが繋いでくれた仲だね」と喜び合いました。

2位は安部公房の『けものたちは故郷をめざす』。これも留学中に読みました。敗戦後、旧満州に取り残された少年が、故郷・日本を目指して荒野を行く物語です。

公房には珍しく、ドキュメンタリータッチな作風です。しかし最後は公房らしく、非常に不条理な終わり方をします。生きるっていうのはこんなにも容赦のないことなのに、なぜ人はこんなにも「生」に執着するのか。深く考えさせられます。

イタリアでの生活は、壁にぶちあたってばかりでした。ものを生み出せない苦しみ、食べるものにも困る苦しみ。後に生活費を稼ぐために漫画を描き始めたわけですが、そんな生活の中で、人間の実存をシビアに問いかけてくる公房の物語が胸に染みました。

作家としての理想形

三島由紀夫の中で一番読み返している『豊饒の海』が3位です。これも留学中、日本語に飢えていた頃に読んで、まず、文体の美しさに衝撃を受けました。それから何と言ってもテーマが壮大。

三島は輪廻転生という仏教的なテーマを追究し、ほぼ悟りの域にまで達しています。これだけの作品を書いたら、自らの本質は作品世界に乗っ取られて、自分の中には即物的なものしか残らないのではないかと想像しますね。

実際、書き上げた直後に三島は自殺したわけですが、同じ表現者として言わせてもらえば、こうした作品を残して死ぬのは作家の理想形といえるのではないでしょうか。

5位に挙げた『ハドリアヌス帝の回想』は、拙著『テルマエ・ロマエ』のハドリアヌス帝のイメージの元にもなった作品です。第14代ローマ皇帝ハドリアヌスは別格でした。教養人として随一、建築家としても優れ、そして繊細で孤独な人だった。だから多くの人が惹かれ書いているわけですが、中でもユルスナールのこの本は、ハドリアヌスが読んだら大層感動しただろうと思います。

ユルスナールはハドリアヌスに乗り移ったように彼の内面に入り込んで書いていますが、本当に乗り移ったら書けないはず。やはり俯瞰の目を持っていたのでしょう。

古代ローマのホモセクシュアルな皇帝と、20世紀を生きた女性、ユルスナール。時代も性別も超えて、人がここまでわかりあえることに感動しますね。