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政治政策

「祖父は反戦政治家」安倍首相が決して語らない、もう一つの系譜

「安倍三代」を辿って、見えてきたこと

母方の祖父・岸信介を慕う安倍晋三首相には、もうひとつの系譜がある——。反戦の政治家として軍部と闘った父方の祖父・寛。これまでほとんど語られることのなかった「もう一人の祖父」の実像を丹念に追い、安倍家の思想的なルーツを明らかにした話題の書……それが『安倍三代』だ。

2度目の首相就任から4年、安倍政権が歴史的な長期政権へと向かういま、この本を著した狙いを、著者の青木理氏が明かす。

日本政界の悲しき現在図

各種の世論調査によれば、安倍政権の支持率は相変わらず堅調に推移しているらしい。とはいっても、その実態をクサすのはさほど難しい作業ではない。

たとえば今年1月6~9日に実施された時事通信の世論調査。調査結果によると、内閣支持率は51.2%になってはいるが、支持の理由に踏み込んで尋ねた回答を見ると、「他に適当な人がいない」が最も多く、実に20%を超えている。過去の他メディアの調査では同種の回答が4割近くに達しているものもあり、ようは安倍政権を積極的に支持しているというより、やむなく消極的に支持している層がかなりいることになる。
 
この理由を解析するのもさほど難しくはない。まずは民主党政権(2009年~2012年)の“失敗”にともなうバックラッシュ。戦後初の本格的政権交代への期待が裏切られた反動はあまりに大きく、いまなお態勢を立て直せていない野党への幻滅が与党支持に雪崩を打たせている。政権がころころ変わり、“決められない政治”などと評された一時期を経て、安定政権を求める心理も広がっていただろう。
 
また、政治改革の旗印の下、1990年代半ばに導入された小選挙区比例代表並立制の影響も大きい。政権交代可能な二大政党制を目指したものとされ、現実に民主党政権誕生の引き金にはなったが、自民党でかつて隆盛を誇った派閥はすっかり弱体化した。これ自体、是非の論議はさまざまあるにせよ、必然的に党執行部の力が飛躍的に高まり、党内は“風”が頼りのヒラメや小物議員が大量発生する現象を引き起こした。

結果、「次」を虎視眈々と狙うような“大物”は影を潜め、かつてのような自民党内での“疑似政権交代”すら起きなくなってしまっている。

つまり、安倍政権が高くそびえ立っているというよりむしろ、周辺が軒並み陥没してしまったため、政権が高くそびえ立っているように見えてしまっている——といったあたりが日本政界の悲しき現在図であろう。

 

とはいえ、そんな政権が現実に長期の執権を成し遂げ、「歴史的」と評されている事実も否定はできない。無惨な結末をたどった第一次政権期と合わせれば、安倍政権は昨年12月の時点で中曽根政権を抜き、歴代4位の在任期間を記録した。

賛否が激しく分かれるにせよ、「美しい国」「戦後レジームからの脱却」といったキャッチフレーズを掲げた政権は、集団的自衛権の一部行使容認に舵を切った安保関連法制や特定秘密保護法などを次々と強行成立させ、武器輸出三原則などはやすやすと打ち捨て、果ては共謀罪の導入や憲法改正まで目指すのだと公言している。

70年にわたって営々と積み重ねてきた戦後日本の矜持を大きく変質させているのは間違いなく、その意味でもたしかに「歴史的」な政権ではある。

だが、その政権の主・安倍晋三とはいったい何者なのか。何をエネルギーとし、あるいは何をルサンチマンとし、前へと突き進んでいるのか。政治を専門にする記者やジャーナリストの話を聞いても、その手による記事や書物をいくら読んでみても、私は一向に腑に落ちない。「歴史的」とか「記録的」といった形容で語られるほどの迫力や磁力が現首相にあるとは、私には微塵も感じられないのである。

なのに、政策への賛否を含めた「論」によって現政権を語る書物は数々あっても、政権を率いている男の根本的な人間像に迫った記事やルポはとんと見当たらない。

そればかりではない。政権がメディアに強圧的な姿勢を取りつづけているからか、あるいはメディアの側の劣化も激しいからか、読んでいてこちらが恥ずかしくなるような提灯本、御用本が書店に山積みされている。いちいち書名は挙げないが、幾冊かは大手メディアの政治部記者や元記者による著作だというから、これも偽らざる日本メディアの醜き現在図ということになるのだろう。