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歴史

『世界一受けたい授業』人気先生が「歴史」を極めることができた理由

「伝記」が教えてくれた面白さ

伝記に夢中になった小学時代

歴史を好きになり、歴史を教えるという仕事を始めたのは、「伝記」がきっかけなんです。

小学校3年生の時、本棚に見覚えのない本があることに気付いた。手に取ってみると、松下幸之助の子供向けの伝記でした。気になって読んでみると、これが面白い。その晩、父にその本の話をしたら普段めったに笑うことのない父が一瞬口角をあげたのを見たんです。

我が家の本棚にどんどん伝記が増えていったのはそれからでした。岩崎弥太郎、渋沢栄一、豊田佐吉というようになぜか経営者の伝記ばかり。思えば、祖父が飲料メーカーの創業者で父が二代目で次期社長であったことが関係していたのかもしれません。

 

しばらくして、小学校の図書館に行ってみると経営者以外の偉人たちの伝記があることを知ったんです。以降、暇さえあれば図書館で伝記を読み漁り、小学4年生の頃には京都の府立図書館の書庫にあった木村重成などの戦前の小学生向けの伝記にも手を出していましたね。その頃にはもうすっかり、歴史が好きになっていました。

中でも、やはり松下幸之助は一番最初に読んだ伝記の人物として強い思い入れがあります。1位に選んだ『松下幸之助 夢を育てる 私の履歴書』は、数ある松下幸之助の伝記本の中でも、とりわけリアルな松下像を知ることができる一冊です。

伝記と言うと、ものによっては作者の誇張が過ぎる場合もありますが、これは「私の履歴書」のコラムをまとめたものなので、比較的本人の言葉を重視したものになっているのでおすすめです。

来年は明治維新からちょうど150年という節目の年。当時のベストセラーといえば、誰もが福澤諭吉の『学問のすゝめ』を想像しますが、その前年に刊行され、同じく100万部以上のベストセラーになった本が、2位にあげた中村正直訳の『西国立志編』です。

世の中には成功について著した本はいくつもありますが、その大部分は米国的なもので、極端な話、「他人を押しのけてでも、自分が成功すればいい」という考えを是としている。一方、『西国立志編』が他と大きく違うのはイギリスの功利主義にみられる、最大多数の最大幸福の考えが根底にあるということです。

日本という国は、開国してからわずか数十年で世界の大国にまで発展していきました。それだけの潜在的な力が我々日本人にあると私は信じています。だからこそ、私は今日本に必要なのは『西国立志編』で示された考え方なのだと確信しています。

この明治維新150周年を迎えるのを機に、維新の人物たちがいかに日本を発展させたのかをしっかり学び直すべきでしょう。

時代を経ても色褪せない物語

そういう意味では、5位の『福翁自伝』を著した福澤諭吉、6位の『氷川清話』を著した勝海舟の二人は見習うべき人物です。明治維新前の何もない状態から、事なかれ主義にならず、時代を変革しようと胸のすくような活躍ぶりを見せた二人の生き様は、まさに『西国立志編』を象徴するようです。

私の趣味は海外滞在なんですが、といっても向こうで何かをするわけでもなく、その土地の空気を感じるのが好きなんです。そうした未知の世界へ憧れるきっかけをつくったのが、3位の『王国への道−山田長政−』。

山田長政といえば、タイ王国・アユタヤ朝のもとでリゴールの太守となって、地域との調和に努めた人物。ヨーロッパ的な植民化とは違う、日本的な手法で世界に進出していった姿には、現代の日本人も学ぶべきことがたくさんあると思います。

話は戻りますが、一通り伝記を読み終えた後、私が次に読むようになったのが大日本雄辯會が発行していた『少年倶楽部』。子供たちは回し読みが普通で、街には貸本屋があるという時代にもかかわらず発行部数が75万部でしたから、それこそ日本中の子供が読んでいたのかもしれません。

その名作を集めたのが4位の『「少年倶楽部」短篇選』。少年向け小説と侮るなかれ、菊池寛、横光利一、川端康成といった名のある文豪たちが手がける作品の数々は読み応えがあり、血沸き肉躍る物語ばかりです。こうした面白さはいつの時代も色褪せることがないことを実感します。

私にとって読書は、過去というデータベースへのタイムトラベルなんです。生き方の道標となるものや、創造力を掻き立てるものは過去のデータベースに詰まっているのに、現代人は目の前のものばかりに気を取られて、閉塞感に苛まれてしまっている。今こそ、読書が必要なのです。

▼最近読んだ一冊

「この本の元になったのが、私にとって座右の書である安藤達朗先生の『大学への日本史』。歴史が体系的に、筋道を立て、すっきりと書かれた本なんです。それを佐藤優さんが同じように読んでいたことに感銘を受けました」