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学校・教育

「セクハラ処分200人」「うつで休職5千人」日本の教師が危ない!

尾木直樹が、最後に伝えたいこと

この3月で法政大学を定年退職する教育評論家の尾木直樹氏。教員生活44年の「集大成」ともいえる教育指南書『取り残される日本の教育 ~わが子のために親が知っておくべきこと』を上梓した。

「世界的にみると、日本の教育レベルは低くなっている。いま、日本の教育が危機的状況にあるということを、もっと多くの人に深刻に受け止めてほしい」という思いから綴ったという本書の一部を特別公開――。

教師200人超が「セクハラで処分」

教師たちの中で、昨今、「このまま子どもの教育を任せて大丈夫だろうか」と心配になるようなさまざまな問題が起こっています。

2014年度の教職員のうつ病などの精神疾患による病気休職者数(公立学校)は、全国で5045人に上り、2007年以降、5000人前後で高止まり状態が続いています。

同年度にわいせつ行為やセクシュアルハラスメントで処分された公立学校の教員は、過去最多の2013年度と同数の205人を数えました。また、体罰で処分を受けた公立学校の教員数は952人で、大阪市立桜宮高校の体罰自殺問題(2012年)を受けて、報告数が急増した2012年度(2253人)、2013年度(3953人)には及ばなかったものの、依然として、教師による子どもへの体罰が横行している実態を物語っています。

「いじめ」問題も、首をかしげるような事態が続いています。2015年7月には、岩手県で中学2年生の男子が電車に飛び込んで自殺した事件がありました。被害生徒と担任の生活記録ノートのやりとりには、被害生徒からの心の叫びととれるSOSメッセージを担任が全く受け止めることができていない様子が露になっており、世間に大きな衝撃を与えました。

担任らは、生徒をめぐるトラブル自体は把握しており、指導も行っていたといいます。被害生徒は生活記録ノートの6月28日の欄に「氏(死)んでいいですか?」、29日には「もう市(死)ぬ場所はきまってるんですけどねw」と自殺をほのめかす記述をしていました。にもかかわらず、担任は29日の返信欄に「明日からの研修たのしみましょうね」との的外れな返答を記すなど、男子生徒からの必死のSOSに対し、驚くほど危機感の欠けた言葉を返していたのです。

そして、「いじめ」としての認知に至ることなく、適切な対処をとらなかった結果、悲劇が起きました。

 

最近、このように、教師が子どもをしっかり見ていないのではないか、子どもと向き合おうとしていないのではないか、と思わせられる出来事が増えているように感じます。いじめによる自殺などの事件を見ても、子どもの表情や態度の変化にまるで気づかない、“鈍感”な教師の態度に腹立たしく思うことさえあります。

教師の顔が子どものほうに向けられていないとすれば、その教師は、いったいどこを見ているのでしょうか。そこが気がかりで仕方ありません。

忙しすぎて指導できない

教師がなぜ、子どもと向き合えなくなるのか――。その原因を知る手がかりとなるデータがあります。

OECDが学校の学習環境と教員の勤務環境に焦点を当てて実施している国際調査、「OECD国際教員指導環境調査」(TALIS)の2013年の調査結果で、日本の中学校教員の勤務時間が諸外国と比べて格段に長いことがわかりました。日本の教員の週当たりの平均勤務時間は53.9時間で、調査参加国平均の38.3時間を大きく上回っています。

その一方で、生徒指導(授業)に充てた時間は17.7時間となっており、参加国平均の19.3時間を下回っているのです。また、日本の場合は、事務業務や部活動などの課外活動の指導に充てる時間が他国と比べて長くなっていることがわかります。

日本の場合、教員に限らず、すべての労働者の労働時間が他の国々と比較して長いという特徴があります。ですから、教員の勤務時間が長いというだけで“問題あり”と決めつけることはできません。しかし、教師の“本分”ともいえる「子どもの指導(授業)」に充てる時間数が少ないという実態を見過ごすわけにはいきません。

もうひとつ気になるのは、日本の教師が事務業務に携わっている時間が非常に長いという点です。事務業務という、子どもと直接対峙しない仕事に多くの時間が割かれていることが、教師と子どもとの間に“距離”をつくる一因となっている可能性があります。

たとえば、公立中学校の教師の場合、授業や授業の準備、学級運営のほかに、さまざまな業務をこなさなければなりません。

学校の中には多種多様な仕事があり、それらは役割ごとに業務分担されています。教務・運営、生徒指導、研究推進、行事・各教科の委員会など十数種類にも上るため、各教員は複数の業務を兼任しなければなりません。そのほか、校外パトロールやPTAの委員会担当、地域の町会担当、教科会等々、生徒指導とは直接関係のない業務が非常に多いのです。

こういった煩雑な業務に時間を取られ、授業準備がままならないという状況は、子どもの学力に直接的な影響を及ぼします。これについて、高井良健一・東京経済大学教授は、「学校の授業の質の低下は、学校外に学びの資源と機会を持っている子どもたちとそうでない子どもたちとの学力格差を拡大する」と指摘しています。つまり、教員の多忙は子どもの学力格差の拡大にもつながるのです。