政治政策

石原慎太郎元都知事は、一体何を間違えたのか?

<「モノ言う知事」の品性と功罪>(後編)

築地市場の豊洲移転問題で、再び疑惑の眼が向けられている石原慎太郎・元東京都知事(84)。今年1月に『安倍三代』上梓したジャーナリストの青木理氏が、2007年4月の「月刊現代」に寄稿した、石原都政8年間の内実を暴いたレポート<「モノ言う知事」の品性と功罪>の後半部分を公開する。(前編はこちらから)

ついに「懐刀」と呼ばれた浜渦武生副知事が登場、石原氏の「無責任ぶり」はさらに加速する――。

(編集部注:文中敬称略、肩書は当時のものです)

 

「こんな大学、世界にないぞ」

石原都政が強行した大学改革は結局、「首都大学東京」の開校という形で現実化した。石原が任命した理事長は日本郵船元副社長の高橋宏。学長に就任したのは東北大学総長などを務めた西澤潤一。

高橋は石原が「一番の親友」と呼ぶ一橋大学時代の同期であり、西澤はノーベル賞候補にも名前が挙がる電子工学の第一人者だが、一方で「新しい教育基本法を求める会」の会長を務めて「愛国心の育成」や「道徳教育の強化」を声高に訴えてきた人物である。要は石原の友人やお気に入りの人物をトップに据えた「石原大学」が出現したのだ。
 
新大学発足の直前にあたる05年3月25日、都立大で開かれた卒業式で、最後の都立大総長となった茂木はこんな式辞を送っている。少し長くなるが一部を引用する。

「ここ数年間、都立大学は改革の嵐の中を進んできました。トップダウンはどんな場合でも誤りだというのではありません。しかし、ボトムアップを一切位置づけないトップダウンは、どこかで行き詰まります。

意見を述べること、討議すること、一致点を見出すこと、これらが無視されたり軽視されたりする経験が重なってくると、人々は『もう何を言っても無駄だ、決めるのは自分ではなく、他の誰かが決めるのだ。結果が悲惨でも自分には責任がない』、このような心境になる危険性があります。これは思考停止であり、歴史上の幾多の事件、もっと言えば戦争の前夜にも人々の耳にささやかれた、いわば『悪魔の声』です」

独善的な為政者による強権的な大学破壊への怒りと、それに抗しきれなかった無念さが滲んだ式辞だった。だが、こうした叫びは石原の心には何一つ響いていないようだ。直後の4月6日に開かれた首都大学東京の第1回入学式で、石原は新入生を前にこんな「祝辞」を口にしたという。

「こんな大学はないぞ、世界には。東京にしかない。たった一つしかない、それがこの大学なんだ」
 
前述した通り、少なくとも就任初期の銀行税やディーゼル車規制といった施策からは、石原都政の内包する「罪」が垣間見える一方で、「東京から日本を変える」と吠えたスローガンの「功」と評価できる部分も確かに存在した。だが、その後に強行された施策の数々からは、独りよがりで暴力的な権力を場当たり的に振りかざす石原都政の悪臭しか嗅ぎ取ることはできない。
 
ある都の職員は苦笑いしながら「石原さんが独善的なのは最初っから一貫している。独裁的トップダウン型の行政の良い面より悪い面が目立つようになっただけだ」と言うが、別の都庁幹部の分析はこうだ。

「当初は石原さんの突破力と都庁幹部の知恵がうまく融合した部分もあった。しかし、その後は石原さんの周辺を固める側近はもちろん、都庁幹部が次第にイエスマンばかりになってしまったことが大きく作用している。石原都政とは結局、側近による一種の宮廷政治のようなものになってしまった」
 
もちろんその最大の責任は石原にある。だが、その弊害を増幅させた象徴的存在として知られるのが浜渦武生だ。石原の最側近として都庁に乗り込み、副知事として暴政の先頭を担った男である。

「都知事の懐刀」と呼ばれた男 

1947年生まれの浜渦は、石原が衆院議員時代から秘書を務めた「側近中の側近」であり「懐刀」と評される。都議会の反発を受けて当初は特別秘書の座に甘んじていたが、2000年7月に議会の同意を取り付けて副知事に就任すると、週に2~3日しか登庁しない石原の“名代”として都政の実権を掌握するに至った。そんな浜渦について都庁OBはこう言う。

「都庁職員を怒鳴り上げて罵倒、恫喝するのは日常茶飯事。石原知事にだけ忠誠を尽くし、気に喰わない人物は謀略まがいの手口も厭わず駆使して蹴落とそうとする。失礼だが、権力闘争と謀略が好きな永田町の秘書連中の中でも、相当に質の悪いタイプだ」

副知事就任直後の2000年9月、浜渦は酒に酔って目黒区内で通行人とつかみ合いのけんか騒ぎを起こし、その直後には取材にあたっていた写真週刊誌記者ともみ合いになる事件を起こしたことが発覚している。民主党都議団幹事長の田中良は石原と浜渦の関係をこう皮肉る。

「石原知事は本当のところ極めて臆病な人。だから浜渦のように絶対忠誠を尽くす『不良』が近くにいると安心する。石原知事にとって浜渦氏は精神的支柱なんだ」