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【ネット広告の最暗部】業界を震撼させた「200億円詐欺事件」の闇

改ざんと不正が横行する世界で

日常化する不正請求

昨年末、世界のネット広告業界を震撼させたのが、偽のブラウザー上で、数十万にのぼる架空のWebサイトとユーザーを捏造、インターネットのビデオ広告が、多く閲覧されているように見せかけ、全米の広告主から約1億8000万ドル(約211億円)をだまし取ったという詐欺事件だった。

「メスボット」と呼ばれるこの仕掛けは、ロシアの詐欺グループが考案したといわれているが、発見した米の広告詐欺対策ベンダーは、その詳細を明らかにしていない。ここで指摘すべきは、昨年10月の運用開始から年末の発覚までの約2ヵ月半の間に、1日で最大6億円もの被害が出たことだ。

これは過去最大のネット広告詐欺被害の3倍だが、広告代理店や詐欺対策を行うベンダーもロクな対策技術を持っていないことの証明で、ネット広告が拠り所とする閲覧履歴を示すクッキーベースの仕組みが抱える弱点を巧みについているだけに、今後ともこの種の詐欺が、世界のネット広告業界で発生する可能性がある。

トヨタ自動車が、代理店の電通に対して「広告を出稿したのに出ていないじゃないか」と、指摘したことで表面化したネット広告不正は、電通の内部調査によって、不適切業務が997件、1億1482万円。このうち広告未掲載なのに請求する詐欺行為は、40件、338万円であることが判明した。電通は、1月17日に発表、高田佳夫専務以下17名を減棒処分とした。

この問題は、15年12月に過労自殺した女性社員・高橋まつりさんの労働基準法違反事件と発覚時期が重なっているため、報道の扱いは小さくなったが、ネット広告が孕む幾つもの問題がある。

 

まず、毎年2桁ベースで急成長、ラジオ、雑誌、新聞の順で追い越し、今や1兆円を超えてテレビ広告も抜くのは確実だといわれるネット広告の現場が、急成長ゆえに様々な歪をもたらしていること。高橋さんの担当が、ネット広告のデジタル・アカウント部であったのは、パワハラが横行するといわれる電通の体質を加味したとしても、過酷なネット広告環境を象徴している。

ネット広告は、他の媒体のようにマス層に向けてイメージをアピールするのではなく、閲覧内容やそれに紐づく情報に連動、キーワードに反応する検索連動型の広告が多く、その分、ターゲットが絞りやすく、しかも広告のクリック率と成約率が把握できる双方向の強みがあるとアピールされている。

だが、実態は代理店任せで、広告主は代理店に丸投げし、広告表示回数のインプレッションはもちろん、クリック数などの広告の効果を判定する基本データまで代理店に委ね、代理店が集計したレポート上のデータで済ませているケースがある。

広告と業績が連動、広告効果が表れている間はいいが、効果が見えないと、広告主の担当者は「どうなっている!」と、上司から報告を求められ、あわてて代理店に運用実績の細かい報告を依頼する。だが、代理店は細かい数字を把握していないし、そもそも報告する気がない。

実は、代理店もDSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)という業者にシステマチックな運用を委託しているだけなので、単価や業績にはムラがある。そのうえ、残された詳細データは最長でも半年で普通は3ヵ月程度。しかもそこからデータを抽出する作業は煩雑で、細かい報告を求められると、勢い、データを改ざん、虚偽報告が行われる。

これが実態で、電通が行っていた不適切業務、不正請求は日常化している。しかもトヨタ1社、電通1社でその数字。1兆1594億円(15年)のネット広告総体で、どれだけの改ざんと不正が行われているかと思うと気が遠くなる。

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