ライフ 週刊現代

有名企業を退職した男たちが陥る「家庭内管理職」という病

オレが一番偉い、文句あるなら出て行け
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町内会でも「仕事論」

もうひとつ代表的なのが、理系の職業に多い、「仕事一筋人間」タイプである。こちらもかなりのエリート、誰もが知る超大手電機メーカーで役員まで務めた男性のケースを妻が語る。

「夫はいかにも理系の研究者といった感じの性格で、世間のことにまったく興味がなく、これといった趣味も持たず、ずっと家と会社との往復で生きてきた人。食事はもちろん、スーツの準備、靴磨き、毎日のスケジュール管理さえも私がやっていました。

現役のころは、それでも仕事が大変なのだから仕方がないと思って、私も黙っていました。でも、退職してヒマになったのに、今まで同様、毎朝服を出して着せてあげないといけない。

最近になってはたと気付いたんですが、夫は私のことを部下のようなもの、言えばなんでもやってくれる存在だと思っているんでしょうね。悪気はないんでしょうけれど、長年一緒に暮らしてきたのに……と、悲しくなってしまいました」

 

この男性とは正反対の、文系、コミュニケーション上手で鳴らしてきた敏腕営業マンですらも、「家庭内管理職」と化してしまう。神奈川県の40代男性が言う。

「親父は中堅広告代理店の営業部門で、退職前は役員とまではいきませんでしたが、部長をやっていました。同じ会社の再雇用を嫌がって断り、自分で仕事探しを始めたんです。

自分ほどの実績と話術があればすんなり再就職できると思っていたようですが、それがうまくいかなかった。そもそも、60超えた人の話術を買ってくれるような会社なんてないんですよ。

結局、回ってくるのは警備員とか公共施設の保守点検といった、能力を活かせない仕事ばかりだったそうで、ヘソを曲げてしまった」

そこから、自他ともに認める社交的な人物だったはずの父親は、昔話を繰り返すようになった。

「会うたびに『あの役員は私の後輩だ』『あのプロジェクトはオレがいなきゃ回らなかった』『いいか、組織ってものはな』と講釈を始める。うちの中だけかと思ったら、町内会の集まりに出たときにも近所の人に向かって同じような話をしていたと聞いて、頭を抱えました」

これではいけないと考えた男性は、たびたび自分の息子を伴って実家を訪ねるようにしたという。

「孫の顔を見れば、仕事の話は忘れられると思って。この作戦は途中までうまくいっていたんですが、ある時『地雷』を踏んでしまいました。

親父は大学まで野球に打ち込み、会社でも野球部に入っていた野球人間で、息子ともよくキャッチボールをしてくれていた。それが、息子が小学校に上がったときに『サッカーがやりたい』と言い出したので、『オレの努力は何だったんだ』と完全に落ち込んでしまって……」

マジメに仕事をしていれば、会社の人たちは自分を認め、尊敬してくれた。みな自分の指示には二つ返事で従い、めったなことでは反論などされなかった。

しかし、家族にとって父親は、部長でも役員でもない。一日の大半を「上司」として過ごしていたときの態度のまま、家に居座るようになった父親を見て、だんだんと心が離れていく――。

武蔵大学助教で、男の生き方を研究する「男性学」を専門とする田中俊之氏が指摘する。

「現役の間は気付かないのですが、日本の父親は『自分の人生と引き換えに会社に尽くして給料をもらい、家族を養っている』という意識が強い。しかも家族の側も、父親には仕事以外期待してこなかった。

仕事にほぼ100%の能力と時間を割り振っていたのに、急にそれが0%になるわけですから、多くの人が切り替えられず『家庭内管理職』になってしまうのは仕方ないことです」