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医療・健康・食 週刊現代
「手術は成功、でも死んじゃった…」とならないために
医者と患者間の「埋められない溝」

「無事に終わりました」。そう医者に言われて安堵したのも束の間、患者の意識が戻らない――高齢者手術ではよくあることだ。そもそも「手術の成功」とは何か? 医者と患者間の意識の差を探る。

麻酔から覚めない

「母は74歳で婦人科の検診を受けた際に、心臓の胸部大動脈瘤が見つかったんです。医者には『手術をしなければ半年以内に亡くなる可能性が高い』と言われました。

それまでまったく症状はありませんでしたし、とても元気でしたから、本人は手術する気はなかった。しかし、医者があまりに深刻そうに言うので、私たち家族も医者の言うことを信じて、手術を受けるように勧めました。

周りからさんざん『このままだと死ぬ』と言われたので、本人の意思に反して手術を受けざるを得ない状況に追い込まれたのです」

こう語るのは河田武彦さん(仮名、53歳)。河田さんの母親はろくに身辺整理をする暇もなく手術を受けることになった。

「本人も家族もそんなに難しい手術だと思っていなかった。だから、取る物も取りあえず『ちょっと行ってくる』という感じで入院しました。

手術は5時間ほどかかりました。手術直後、医者に『無事に終わりました』と言われて私たちもすっかり安心した。

問題はその後です。なかなか麻酔から目覚めない。これはおかしいぞということになって、3日目にようやく医者の説明があった。『手術は成功したけれど、高齢なので体力が奪われた』と言うのです。結局、そのまま、脳梗塞の合併症を起こして、1週間後に亡くなってしまった。

手術などせずに血圧だけコントロールして日常生活に気を付けていれば、もっと長く楽しい人生を送ることができたはず。今となっては悔やまれるばかりです」

医者は「手術はうまくいった」と説明したのに、結局は帰らぬ人になった。このようなケースは意外に多い。

 

麻酔科医で近著に『フリーランス女医は見た 医者の稼ぎ方』がある筒井冨美氏が語る。

「手術が無事に終了して、麻酔科医が帰宅したら、その後患者の容態が急変して、死亡してしまうというような事例は、私の経験では1000件に1~2例はあります。つまり決して珍しいことではない。

出血や感染、肺塞栓など原因が明らかになることもありますが、まったく原因がわからないケースもある」

医者にとって、手術がうまく終わったということは、あくまで開腹して切除する予定だったがんを取ったり、動脈瘤を除くことができたという意味に過ぎない。

その後、無事に生還するか、ましてや手術の前より元気になって、より充実した生活が送れるかどうかというのは、別問題なのだ。