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読書離れに「大賛成」? ミリオンセラー作家が明かす「本の力」

街の本屋さんは未知の世界への入り口

桜庭一樹にヤラレた

読書家の母が子供も本好きにしようと、兄に児童文学全集を与えたそうなんです。しかしその甲斐もなく、兄は全く本に関心のない人間に育ちました(笑)。

そこで弟には、もっと子供の喜びそうな本をと考え、『安達ケ原の鬼ばば』とか『番町皿屋敷』といったお化けの話を読み聞かせてくれた。こちらはすっかりハマってしまい、母の望んだ通りに読書好きになりましたね。

今回はパッと頭に浮かんだだけでも影響を受けた本が20冊以上あり、10冊に絞り込むのが大変でした。

1位の『魔術はささやく』は脚本家になってすぐの28歳の頃に読みました。ネタバレになってしまうので詳しくは言えないんですが、「ストーリー」というものについて熟考していた時に、この本のクライマックスで、それまで見たこともなかったストーリー展開に出くわしたんです。まさに驚愕の展開でした。

自分が小説を書きたいと思ったのは、この本の著者、宮部みゆきさんの作品を読んだのがきっかけです。特に『魔術はささやく』のストーリーの構造を徹底的に研究した結果、デビュー作の『13階段』が生まれました。自分の人生を変えてくれた一冊です。

2位の『富豪刑事』は、日本のミステリー史上に残る傑作だと思うんですが、過小評価されている。

 

大富豪の息子である主人公が事件を解決していく連作短編集で、抱腹絶倒のコメディ小説である一方、ミステリーとしての謎解きも見事なんです。

笑いを追求すると、肝心なところでもふざけてしまいがちなんですが、この作品は「決めるところは決める」という著者のメリハリのつけ方が凄い。その上、犯人を追い詰める過程がスリリングなコンゲームになっているし、魅力的なキャラは続々登場してくるし、こんな贅沢な短編ミステリーは他にないのでは。

コメディでも、舞台設定などの考証をおろそかにしない徹底したプロフェッショナリズムも大変勉強になりました。

今回挙げた10冊のほとんどは20代で読み終えた作品ばかりで、その後は頭を殴られるような衝撃的な本にはなかなか出会えないと思っていたんです。

ところが、40を過ぎてから、3位に挙げた桜庭さんの『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』に出会った。平易な言葉と文章で綴られているのに、どうしてこれほど胸に迫ってくるのか。

最初は「海野藻屑」なんて名前の登場人物が出てくるので奇をてらいすぎかなと思っていました。ところが読み進めると、奇抜な設定が180度転換し、普遍性のある物語になっていく。人間の心の悲しい側面を、見事に描いている名作だと思います。

作家としての姿勢を学んだ

4位の『宇宙からの帰還』は、徹底的な取材を元に、宇宙飛行士が宇宙でどんな精神的な体験をしたのかを明らかにした本です。内容が素晴しいのはもちろんですが、著者の下調べがまた物凄い。一冊の本を書くためにここまでやるのかという驚きがありました。以来、自分が小説を書く時も、調べ物で手抜きはしないようにしています。

立花隆さんの本は、どんなに難しい題材でも面白く、しかも分かりやすく書かれているので、どれもお薦めです。あの強靱な思考力に触れているだけで、自分もちょっと頭が良くなった感じになります(笑)。

5位の『エクソシスト』は、小学校4年だった初読の時は分からない箇所が多かったんですが、中1の時に再読したら、あまりの面白さに一気読みでした。今でこそ憑依、悪魔が乗り移るなんて話はいっぱいあるけど、当時は誰もが仰天するような画期的なアイデアでした。

ストーリーテリングも見事だし、医学と宗教両面からの徹底的なリアリティも素晴らしい。映画の方が有名ですが、原作は、より物悲しい物語になっています。現在に至るまで何度も読み返している大傑作です。