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企業・経営
ついに日本企業を狙い始めたカラ売りファンドの「野望と言い分」
代表二人に、話を聞いた

武器は「レポート」

狙われたが最後、彼らはその目的を果たすまで、喰らいついて離さない――日本企業がいま、もっとも恐れている集団をご存じだろうか。それは「空売りファンド」である。

空売りファンドとは、事前に借り入れた株式を売却した上で企業の不正や過大評価されている点を追及し、株価が下がったところを買い戻して利益を得るという手法をとる投資ファンドのことだ。空売り自体は個人投資家を含めて広く行われているし、海外では空売りファンドの存在は広く認知されている。

彼らの最大の武器は「レポート」だ。狙いを付けた企業を徹底的に調べ上げ、財務体質の問題や不可解な会計処理などをレポートにまとめて公にし、他の投資家に「この株、売るべし」と働きかける点にユニークさがある。

彼らに狙われた企業はプレスリリースなどを通じて反論するが、空売りファンドの指摘が的を射ている場合は、格付け機関がその企業の評価を見直したり、機関投資家が保有株式を大量に手放したりするため、企業の株価がガクンと落ち、空売りファンドに多額のカネがもたらされることになる。

空売りファンドによる企業の不正追及は、米国では何十年も前から行われてきた手法だ。最も有名な例には、エンロンの巨額の粉飾決算を指摘し、同社が破綻する引き金を引いた「キニコス」というファンドが挙げられる。

しかし近年、米国では上場企業の情報公開が進み、極端な違反企業が出て来ることが少なくなった。それによって空売りファンドは標的を中国や香港の企業にまで広げてきたが、ついに日本市場にその矛先を向け始めたのだ。

レポートひとつで株価が急落

<「ユーグレナ」は大きな夢を抱く会社であり、従前、株主にその夢を信じ込ませることに成功してきた結果、株価はおとぎ話のようにつり上がっている>

1月19日、投資助言会社の「ウェル・インベストメンツリサーチ」社が、刺激的な文言から始まるレポートを日本語と英語で同時に発表した。

狙われたのはミドリムシを活用したバイオ燃料事業で注目を集めるユーグレナ社。最も有名な日本のベンチャー企業のひとつ、といっても過言ではない。

ところが、同社の事業はバイオ燃料事業ではなく、ほぼ健康食品事業で成り立っており、その健康食品事業も競合の参入により収益性の低下が見込まれるため、現在の株価は過大評価されている……と指摘するレポートを、ウェル社が公表したのだ。このレポートが発表されるや、同社の株価は一時10%近くも下落してしまった。

 

ウェルは先月13日にも、時価総額約2兆円の大手空調制御メーカー「SMC」が、最低でも871億円の現金を架空に計上している、と指摘したレポートを発表したばかりだ。

また、その同じ日に米国の空売りファンド「マディー・ウォーターズ」が、日本を代表するモーターメーカー「日本電産」を、<既存事業は全く伸びておらず、たびたび目標が未達に終わっているのに、「過大評価」されている>と糾弾したレポートを発表した(いずれの企業も即座に否定)。

日本企業を標的にした空売りレポートは2015年には1件のみだったが、2016年はのべ6件に上り、「空売りファンド元年」とも呼ばれている。背景には、2015年4月、アベノミクスの成長戦略の柱として「コーポレート・ガバナンスコード」が制定され、海外の一流企業と同じレベルに、日本の上場企業の統治体制を改善し、企業価値を向上させるべきだ、という認識が強化されたことがある。

ところが、「コーポレート・ガバナンスコード」が制定された直後の7月に東芝の不正会計問題が露呈、2016年にも三菱自動車、スズキ自動車による不正発覚、DeNAの買収子会社が著作権侵害を犯していた疑惑が浮上するなど、日本企業の「お粗末な体質」が続々と明らかになってしまった。

見てくれはよいが、実は問題を抱えている脆弱な日本企業がまだまだあるのではないか……と空売りファンドは日本市場にビジネスチャンスを感じているのだ。