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出版不況だと嘆くヒマがあるなら…羽田圭介の「大胆な提案」
羽田圭介×武田砂鉄【後編】

羽田圭介さんが芥川賞受賞後初となる小説『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』を刊行した。なぜこのタイミングでゾンビ小説を発表したのか? 『芸能人寛容論』が話題のライター・武田砂鉄さんが、羽田さんの創作論に斬り込んだ特別対談の後編!(前編はこちら→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50830

 

社会問題に頼った小説はずるい

武田 羽田さんは小説に社会問題となっているテーマを持ち込むことが多いですよね。『スクラップ・アンド・ビルド』では介護の問題を書き、『「ワタクシハ」』では就職活動をテーマにした。『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』では、高校生たちが抗議運動で「Noゾンビ! No原発!」と叫んでいる。社会の問題を取り入れようという意識は強いのですか。

羽田 そんなに大げさなことは考えていなくて、小ネタとして入れているだけですね。別にそれがなくても小説は成立する。特に『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』は、もう芥川賞をはじめとする純文学の賞に頼らないで自活しようと思って書き始めた作品だったので、エンターテインメント性を強めるために、読んだあとに語りたくなるような小ネタの要素をかなり入れ込んでいます。

武田 小ネタ、とおっしゃいましたけれど、原発事故にしても、横暴な政治にしても、そのテーマを軸にして1冊の小説を書き上げる作家も多くいますね。羽田さん自身は、作家はそこまで社会問題にコミットするべきではないと考えているのですか。

羽田 そうですね。だったら小説じゃなくていいんじゃないかって。小説が社会的な問題に頼り過ぎると、小説としての強度は弱くなると思うんです。僕の場合はあくまでも小ネタに過ぎないので、たとえそれを削っても、面白さを確保できるような作品にしたつもりです。

武田 小説以外の物書きが社会問題に頼って書かれた小説を読むと、時には「ずるいな」と思うこともある。でも、羽田さんのように、あくまでも「小ネタ」として消化する潔さがあるのかもしれません。そのさじ加減は難しそうですが。

羽田 僕が中高生だった頃、「キレる17歳」の事件が世間を騒がせていて、青少年の暴力や殺人をテーマにした小説が「重厚」と言われていたんですよ。でも、描写は紋切り型だし展開は予想通りだし、たぶんテーマとして扱われている殺人自体のイメージが重いだけで、むしろ軽薄な小説が多いなと当時から思っていました。

作家が何も背負わずコストもかけないで、そういうテーマでサラッと書くのは嫌だなと思っていたので、僕は敢えて避けるようにしています。

武田 デビュー作『黒冷水』は兄弟間でエスカレートする憎しみを描いていた。とても嫌いな言葉なのですが、少年の「心の闇」がテーマだなんて言われたはず。しかし、そういったフレーズによって社会的位置づけを付与されることで、作品が注目を浴びるというケースもあるわけですね。『スクラップ・アンド・ビルド』の介護問題にしても。

羽田 確かにそうなんですよね。『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』の帯にも、「羽田圭介が現代日本を撃つゾンビ・サバイバル問題作!」って書いてあるんです(笑)。

羽田圭介氏

武田 だいぶ大きく出ましたね。

羽田 「現代日本を撃つ」って、本を読まない人に向けた言葉という気がするんですよね。でも、大多数の人たちに訴えかけるためには、こういう表現のほうがいいっていうことも分かるので、僕はこの文言を使っていただいてもちろん問題はなくて。ですから、宣伝ではこういう紋切り型の言葉も使わざるを得ないのかなとは思いますね。