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作家として「生き残る」には…羽田圭介がゾンビ小説を書いた理由

羽田圭介×武田砂鉄【前編】

『スクラップ・アンド・ビルド』でピース又吉直樹さんの『火花』と芥川賞を同時受賞し、「又吉じゃないほう」として大ブレイクした羽田圭介さんが、芥川賞受賞後初となる小説『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』を刊行した。

なぜ羽田さんはこのタイミングでゾンビ小説を発表したのか? 『芸能人寛容論』が話題のライター・武田砂鉄さんが、羽田さんの創作論に斬り込んだ特別対談を公開!

不遇の時代が長かった

武田砂鉄(以下、武田) 自分は今、専業でライターをしていますが、2年ほど前まで河出書房新社という出版社に10年ほど勤めていました。羽田さんが『走ル』という自転車小説を河出から刊行された時、自分は編集部に配属されたばかりだったのですが、二人で一緒に自転車に乗りながら都内の書店さんを回ったんです。

羽田圭介(以下、羽田) 2008年に刊行した本なので、8年前ですね。

武田 今、羽田さんがインタビューなどで「売れない時期が長かった」と話しているのを見かけますが、自転車で書店を回っていたあの頃がちょうどその時期だったのかもしれません。今となっては信じられない話ですが、ある書店に行くと、店員さんが用意していたのが「ハダさん」の本ではなく、「ハタさん」、別の作家さんの本だったんです。

羽田 え、そうだったんですか(笑)?

武田 これはさすがにマズいと思って、適当な理由をつけて羽田さんが部屋に入ってこられないようにして、急いで入れ替えてもらいました(笑)。羽田さんが「不遇の時代」を語る度に、あの光景を思い出すんです。

羽田 僕は高校生のときに『黒冷水』という作品でデビューしたんですけど、デビュー作が割と売れたんです。ハードカバーで7万5000部。

武田 純文学作家のデビュー作でその部数はすさまじいですね。

羽田 『黒冷水』は文庫でも3万部ぐらい売れました。2作目の『不思議の国のペニス』と3作目の『走ル』はデビュー作ほどではないにしても、初版で1万部以上あったんです。でも、4作目から1万部を切るようになって、そこからが本当の不遇の始まりという感じでしたね。

武田 そういえば、先日、羽田さんがデビューした文藝賞の授賞式でもお会いしましたが、羽田さんが円卓に1人、誰も寄せ付けないオーラを発していました。話しかけても、上の空でしたね。

羽田 あー、あの頃はテレビ収録が立て込んでいて、ものすごく疲れてたんです。しかも、翌日から3泊4日で「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」のロケに行かなきゃいけなくて、体力温存のために、肉とかを黙々と食べていました。

武田 ゾンビになっていたわけではないんですね。発売されたばかりの羽田さんの小説『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』に、文学賞のパーティーにゾンビが出現する場面があるので遠回しの宣伝かと思いました(笑)。

 

羽田 『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』は、芥川賞を受賞してから初めて刊行した本で、これまでの僕の小説の中で一番長い作品になりました。ゾンビ映画が好きな人ならタイトルですぐに分かると思うんですけど、変質暴動者=ゾンビが出現し始めた世界を描いた長編小説です。

編集者の須賀、デビュー10年目の極貧作家K、久しぶりに小説を発表した美人作家の桃咲カヲル、家族で北へ逃げる小説家志望の南雲晶、区の福祉事務所でゾンビ対策に追われるケースワーカーの新垣、ゾンビに噛まれてしまった女子高生の青崎希など、6人の主要人物が出て来る群像劇で、火葬されたはずの文豪たちもゾンビとして甦ります。

でも、ただのゾンビ・サバイバル小説ではなくて、ある世界で何かを洗練させることが、その世界の外側にいる他者には伝わりづらくなってしまう可能性をはらんでいることを、ゾンビと絡めて風刺っぽく書いた作品ですね。