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「子どもがほしい」を叶えるもう一つの方法〜産まなくても育てられる
つながる不妊治療と特別養子縁組

血のつながらない子をひきとり、わが子として育てる養子縁組。日本にも、6歳未満の子どもを対象に、生みの親との法的な親子関係を終わらせ、育ての親が名実ともに親となる「特別養子縁組」という制度があります。

じつは、特別養子縁組を希望する「育て親候補」の夫婦は、ほとんどといっていいほど、不妊治療の経験者です。

特別養子縁組で子どもを迎えた夫婦の物語をまとめた『産まなくても、育てられます』の著者、朝日新聞記者の後藤絵里氏は、「なかなか出口の見えない不妊治療のトンネルのなかにいる人たちにこそ、特別養子縁組を知ってほしい」といいます。

終わらない不妊治療

育て親候補の夫婦の年齢は、年を追うごとに高くなる傾向にあります。ある民間の養子縁組仲介団体の説明会をのぞくと、会場にいた夫婦はほとんどが40歳以上で、なかには夫が60代という夫婦もいました。

戦後半世紀にわたり、生みの親が育てられない子どもたちに、里親や養子縁組によって新しい家庭を見つけてきた、神戸市と大阪市に事務所を持つ「家庭養護促進協会」の話では、育て親を希望する夫婦の平均年齢は、30年前は30代前半だったそうです。それが2000年代以降、じりじりと上昇し、今では45歳に近づきつつあります。

その背景には、晩婚化で不妊治療を受ける夫婦の年齢が高くなっていること、そして、生殖医療技術の進歩によって、不妊治療自体が長期化していることがあるといえます。

30年前、不妊治療といえばもっぱら人工授精しかありませんでした。それが、今はどうでしょう。人工授精で結果が思わしくなければ、体外受精へ。さらに、精子の数や運動率に問題があったり、卵子の受精力が弱かったりする場合は顕微授精へと、治療法をどんどんステップアップさせることができます。

また、不妊治療への心理的ハードルが低くなり、多くの芸能人が治療に挑んでいることをカミングアウトするようにもなりました。40歳を過ぎての初産も、もはやめずらしいことではありません。

 

不妊治療において、医師と患者が力を合わせてめざすゴールは「妊娠」「出産」です。望みがゼロではない以上、患者さんたちは4年、5年と不妊治療を続けることになり、その間にも年齢を重ねていきます。

不妊治療を受ける患者さんが高齢化しているという現象は、欧米先進国と比べても、日本で突出しているようです。

埼玉医科大学産婦人科教室の石原理教授らの研究によると、日本で不妊治療を受けている人のうち、40歳以上は31%を占め、米国の15%、英国の14%など、初産年齢が高い国の中でも高齢化がきわだっています。

年齢が上がるほど妊娠・出産率が下がることは、数字がはっきりと示しています。日本産婦人科学会によると、2012年に行われた体外受精で、40歳の女性が実際に出産に至った割合は8・1%。1歳若い39歳で10・3%、41歳では5・8%と、1歳ごとに確率は大きく減少し、45歳では0・7%と1%を切ってしまいます。

晩婚化で不妊治療を受ける人たちの年齢が上がる一方、卵子の老化は止められず、解決法がないという「不都合な真実」に、医師も患者たち自身も向き合わなければいけない局面にきているのです。

不妊治療の長期化は、治療費の高額化も意味します。

前出の石原教授らの研究では、2010年に、45歳で治療を受けていた患者さんのその年の治療周期の総数に1周期あたりにかかると想定される治療費の平均30万円をかけ合わせ、実際に生まれた赤ちゃんの数で割ったところ、赤ちゃん1人あたり、5000万円もの治療費がかかっている計算になったそうです。

育て親にも年齢の壁

不妊治療を受ける夫婦の高齢化と不妊治療の長期化は、日本で特別養子縁組の普及をむずかしくしているひとつの要因です。不妊治療から養子縁組への「心の切り替え」が遅れがちになるからです。

筆者が出会った特別養子縁組を希望する夫婦のほとんどは、期間の長短はあれど、一度は不妊治療を試みていました。そして、治療を一定期間続けたあと、治療の続行をあきらめ、養子縁組を仲介する機関の門をたたくケースがかなり多いことに気づきました。

子どもがほしいと願う多くの人たちにとって、「不妊治療」と「養子縁組」は、同時に考える並列の選択肢ではなく、ひとつがうまくいかなかったら次を考えるという順列の選択肢だったのです。