〔PHOTO〕gettyimages
アメリカ 大統領選
あらためて問うヒラリーの敗因 〜民主党が抱える「深刻なジレンマ」
リベラルの理念か、労働者の利益か

トランプを支持した民主党系労働者

「打倒トランプへの険しい道のり」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50664)で述べたように、選挙後に現地入りした筆者が、民主党の党幹部、陣営関係者、議員らの口から耳にする内部批判は、1つは大統領選挙の候補者、政治家の人材をめぐる問題であるが、もう1つは陣営幹部の選挙戦略に向けられていた。

反省のポイントは、オハイオ州、ペンシルベニア州などの白人労働者票に対して有効なメッセージを打ち出すことを優先しなかった点だ。

しかも、彼らが悔やんでいるのは、製造業の疲弊に象徴される「格差と雇用」が有権者の関心事だった兆候を十分に掴んでいたのに、対応を重視しなかったことだ。

労働組合系の米民間団体「ワーキング・アメリカ」は、2015年12月から2016年1月にかけてオハイオ州とペンシルベニア州(主としてクリーブランドとピッツバーグ郊外)で、世帯年収7万5000ドル以下の労働者層の居住地で戸別訪問を用いた世論調査を行った。

この調査の結果によると、民主党支持層で投票先を決めていたうちの4分の1がトランプ支持を表明していたのである。

筆者も同調査の結果を2016年3月末から新聞寄稿などで引用してきたように、非公開情報ではない。民主党の議会補佐官の間で広くシェアされ、ヒラリー陣営の耳にも入っていた。だからこそ、ヒラリー陣営の白人労働者と経済争点の軽視には納得がいかないという民主党関係者の怒りにも一理ある。

なぜ、ヒラリー陣営はこうした兆候を無視したのか。民主党のジレンマが色濃く滲む。

〔PHOTO〕gettyimages

「利益」と「理念」のあいだ

民主党はもともとニューディール時代までは、伝統的な熟練工を含むブルーカラー労働者層が支持基盤の軸の「(経済)利益」の政党だった。白人労働者の政党だったのだ。

しかし、1960年代の公民権運動とヴェトナム反戦運動で、法廷弁護士、大学教授、フェミニストなどの活動家・専門職・知的産業従事者が増加し、文化的なリベラル化が進行し、「(文化的)理念」の比重が増した。

公民権運動を民主党ジョンソン政権が後押ししたことで、アフリカ系の民主党支持が決定的になった。「黒人の友達」として認定された民主党をアフリカ系は無条件で支持してきた(ジョンソンにはアフリカ系票欲しさの戦略があり、ある種の同床異夢が存在していた)。

以後、民主党政治家は、マイノリティ傾斜は「票のためです」と白人労働者に言い訳してきた。富裕層優遇の共和党を勝たせたくないので、白人労働者も渋々納得してきた。

 

だが、民主党は女性、LGBTなどの自尊心を尊重する「承認」にも力点を置くようになり、キリスト教文化の相対化から、菜食とエコロジー運動が連動した。ヴェトナム反戦でヒッピーが増えた。

民主党内に「経済的利益」か「文化的理念」か、どのリベラルを目指すかの路線対立が生じたのだ。

高所得者も少なくない自立した女性やLGBTの解放運動は、多文化主義的なリベラルの「理念」を体現するもので、生活の糧の「パン」とは無関係で、労働者は反発した。

「高学歴者」の大学生によるヴェトナム反戦運動にも愛国労働者は反発した。軍需産業で雇用を得る労働者と反戦「理念」は衝突する。炭坑など化石燃料産業の労働者の「経済利益」は、地球温暖化阻止の環境「理念」と相容れない。カトリック教会は反貧困で反戦だが、人工妊娠中絶や同性婚では、フェミニズムやLGBT運動と敵対する。

民主党内には、「労働者の党」と「マイノリティ・緑・平和の党」の2つがあり激しく争っているようなものだ。

この「経済利益」と「文化理念」の衝突をすべて棚上げして、「小さな政府」の共和党を共通の「悪」にしておくのが民主党の勝利の法則だった(拙著『アメリカ政治の壁』)。