Photo by GettyImages
企業・経営

社長復帰のH.I.S.創業者、売上目標「1兆円」と息巻く根拠は?

ハウステンボスにロボットカジノ開業か

高齢者の旅行需要や訪日外国人観光客をうまく取り込み快進撃を続けてきた旅行代理店大手のエイチ・アイ・エス(HIS)の業績にかげりが出てきた。

経営テコ入れのため創業者である澤田秀雄氏が社長に復帰し、今期はV字回復で過去最高益になるとの見通しを示している。

市場からは懐疑的な声も聞こえてくるが澤田氏はいたって強気だ。ハウステンボスを魔法のようによみがえらせた澤田氏の神通力は果たして今回も通用するのだろうか。

旅行代理店は儲からない

HISの2016年10月期決算は、売上高が前年比2.6%減の5237億500万円、当期利益が前年比97.5%減の2億6700万円と大幅な減収減益になった。欧州のテロで海外旅行が低迷したことに加え、為替が円高に振れたことで為替差損が発生し、利益を押し下げた。

当期利益がほぼゼロになってしまったのは、長崎と上海を結ぶ客船「オーシャン・ローズ号」の運行中止に伴う特別損失35億4000万円を計上したことが大きい。

オーシャン・ローズ号は、増加する中国人観光客をターゲットに、カジノなどの娯楽を提供する定期航路として2012年2月に初就航した。

同社は約22億円で中古のフェリーを購入し、約13億円の費用をかけて改装工事を行ったが、就航直後に日中関係が悪化したことなどから客数が伸びず、大幅な赤字が続いていた。最終的には運行停止に追い込まれ、投資した金額のほぼ全額を特損で計上することになった。

この特損がなければ、ここまでの業績悪化にはならなかっただろう。それでも売上高、営業利益ともマイナスになっている状況を考えると、本業の成長に翳りが出てきたことに間違いはない。

 

同社の業績はリーマンンショック以降、順調な伸びを示してきたように見える。

本業の旅行事業の売上高は過去5年間で約3割も伸びたが、肝心の営業利益は売上高の伸びほどには増加していない。売上が増えているにもかかわらず、利益が伸びていないということは、旅行事業が「儲からないビジネス」になってきたことを示している。

ちなみに、同社全体の利益が拡大したのは、創業者の澤田氏が再建を手がけたハウステンボスの効果である。ハウステンボスやホテル事業が全体の利益の半分を占めるなど利益面での多角化が進んでいる状況だ。

人はチケット購入経路を変えられない

これまで旅行事業が堅調だったのは、経済的に余裕のあるシニア世代の需要をうまく取り込んできたからである。しかし、シニア層がさらに高齢化すると、旅行の頻度も少なくなり、潜在的な顧客層は減少してくる。

一方で、もう少し若い世代の層は、楽天トラベルといったネット旅行代理店でチケット予約を済ませてしまう。同社はこうした若い世代の層をうまく取り込めていないのが現状だ。

それにしても同社がシニア世代の顧客に支えられ、若い世代の顧客を取り込めていないというのは、皮肉な結果であり、かつ興味深い現象といえるだろう。

なぜなら、同社は若者をターゲットに、格安航空券の販売で急成長したベンチャー企業だからである。JTBや日本旅行など、旅行代理店の老舗から見れば、かつてのHISは若年層ビジネスの象徴ともいえる企業であり、シニア向けのJTBと若者向けのHISという完全な棲み分けが出来ていたのである。

そのHISが今となっては若年層の顧客開拓に苦労している。こうした状況を見ると、旅行代理店のビジネスというものは、世代による経路依存性が極めて高く、ある時期に獲得した顧客層がそのまま持ち上がっていく傾向が強いということが分かる。

つまり、人は若い時に経験した航空券やホテルの予約方法をなかなか変えないということなのだ。これは裏を返せば、楽天トラベルなどネットを中心にした旅行代理店のビジネスも安泰ではないことを意味している。

今、スマホから航空券やホテルを予約している若い世代が中高年になった時には、新しい販売チャネルが確立している可能性が高いが、彼等は今の予約方法から脱却できない可能性が高い。その結果、今、業績が伸びているネットの旅行代理店も、新しい顧客層にうまく対応できなくなる可能性がある。

Photo by iStock