イスラム国 EU アメリカ テロ

今年、イスラム教徒と西欧社会との関係は「最悪」になる

混迷のイスラム世界に出口はあるか
内藤 正典 プロフィール

危うい切り札をにぎるトルコ

ロシアとトルコの仲介でシリアのアサド政権vs.反政府勢力の停戦が合意できたとしても、「イスラム国」支配地域をめぐる戦闘は別の話である。

PYD/YPGはクルドの自治から独立を視野に入れて「イスラム国」と戦ってきたのであり、仮に「イスラム国」が壊滅したら、元通りアサド政権の下で大人しくすることなど考えられない。アメリカに梯子を外された場合、シリアのクルドは行き場を失う。

実のところ、ロシアはアサド政権のバックについてきたものの、シリア国内の軍事権益(中東で基地をもつのはシリアだけ)さえ守れればよいのである。厄介なクルド問題にまで介入したくないのが本音だろう。

停戦合意が成功するかどうかはいまだ不明だが、ロシア、イラン、トルコがシリアの「保証国」となって、各国が支援する勢力を黙らせることをトルコは考えている。つまり、ロシアとイランはアサド政権を背後から押さえ、トルコは自由シリア軍や各種ジハード組織を押さえる。

アサド政権は存続するが、以前のような「恐怖の統治」はできなくなる。さらに、実質的にアサド政権の統治の及ばない「安全地帯」を認めさせられる。そのような不利な条件を呑むのは難しいのだが、ヨーロッパに殺到した難民を帰還させるには、これ以外の方策はない。

 

シリア問題を論じる専門家は、往々にして、この問題がヨーロッパにまで及んでいることを俯瞰できていない。

しかし、EU諸国は、今のままシリア難民が滞留する事態が続けば、EU自身が危機に陥ることを確信している。冒頭に述べたように、今年はEU各国で国政選挙が予定されており、難民の受け入れ割り当て問題が重要な争点となることに疑問の余地はない。

トルコ・イスタンブールのシリア難民たち photo by gettyimages

トルコとEUは昨年3月に、難民流出を止めることで合意したが、その際、トルコが受けるはずだった最大の便宜、すなわちトルコ国民のシェンゲン協定諸国へのビザなし渡航は、いまだに実現していない。この問題もEU各国の国政選挙の争点となることは明らかで、どの国もこれを支持しないこともまた明らかである。

しかし、トルコにはいまだに250万人を上回るシリア難民が滞留している。EUには域内の難民をトルコに送還してしまえという主張が強いが、トルコがこれ以上の難民を黙って受け入れるはずもない。そうであれば、シリア領内に「安全地帯」をつくって、そこに難民を押し返す以外に方法はないのである。しかし、すべてはトルコがどこまでロシアの協力を取り付けられるかにかかっている。