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テロ
知るだに恐ろしくなるイスラム国「誘拐人質ビジネス」の闇
リレー読書日記

誘拐人質ビジネス

年末年始の読書で、一気読みだった本から紹介しよう。『人質の経済学』、これは滅法面白く、かつ恐ろしい本だ。

誘拐をビジネスとして確立し、活動の資金源としてしまったイスラム系犯罪組織。その背景をイタリアの女性ジャーナリストが極めて分かりやすく、しかも平易な文体で書き進めていく(当然、翻訳が上等である)。

まず、引き込まれるのは、どのようにして誘拐がビジネスになったかという背景。

それはアメリカが「9・11」を契機に愛国者法を成立させ、すべての金融機関がドル取引を米政府に届け出ることになると、犯罪組織は決済をユーロ建てで支払うことにした。そのルートが確立されると、組織は扱う商品を「麻薬→人質→難民」へと転化させていったのである。

多くの人質になったのが欧米の若者だった。しかし、著者のナポリオーニは誘拐された若者たちに同情を示さず、極めて厳しいスタンスを取る。

「シリアへ行く若者は、危険を知らずに虎の穴に向かって歩いて行くようなものだ。あそこへ行けば、自分を疎外する大嫌いな欧米世界から自由になれると夢のように考えている。世界でいま最も危険な場所こそが自分を再発見できる場所だと」

その多くは経験、知識の浅いジャーナリスト、人道支援活動家志望の若者たちで、「自分探し」の果てに人質になってしまう。そして解放のために、億単位の税金が投入されるか、もしくは命を奪われる。

驚いたのは、'15年に亡くなった後藤健二さんがイスラム国(IS)によって殺害された背景がハッキリ書かれていることだ。

 

この頃、ISは「助ける人質=経済的価値」と、「殺す人質=政治的価値」を天秤にかけるようになっていた。後藤さんは当初、助ける人質に分類されていたが、'15年1月の安倍首相の中東訪問によってISの方針が変わり、後藤さんの運命も変わってしまった。

読むだに恐ろしく、事実に驚愕することばかりだが、面白さに読むことをやめられなくなる。

あの作家の出世物語

国際情勢本の流れで、フレデリック・フォーサイスの『アウトサイダー 陰謀の中の人生』を読む。

フォーサイスといえば、'70年代、'80年代の大スター作家だ。『ジャッカルの日』は映画が世界的にヒットし、私の世代だと淀川長治解説の「日曜洋画劇場」で何度となく放送され、家族そろって楽しんだ記憶がある。

今回の著作は、自伝というよりもメモワールの趣。パイロットに憧れた後、5ヵ国語を操れることを武器にしてジャーナリストとしてデビューしたフォーサイスだが、フランス駐在の経験が『ジャッカルの日』につながり(もっとも経済的困窮がこの作品が生まれるきっかけである)、ナイジェリア内戦の取材経験が『戦争の犬たち』へとつながっていく。

本作ではフォーサイス自身がイギリス情報部に協力していたことが明かされる。読ませどころは旧東ドイツの描写だ。

お断りしておくと、大した仕事はしていない。しかし、緊迫した場面の描写はとにかく読ませる。80歳を目前にした人間の筆力とは思えない。

正直、老人の自慢話という部分もあるが、'70年代の作家として脂が乗っていた時期の話は出世物語としても楽しい(ところが売れたことで東ドイツで身の危険にさらされる!)。フォーサイス・ファンにはオススメ。