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不正・事件・犯罪 格差・貧困
セックスに溺れた女が、現実逃避の果てに2人の我が子を殺すまで
ルポ・下田市嬰児連続殺人事件

嬰児殺しの原因は貧困か?

嬰児殺しとは、母親が産んで間もなくの赤ん坊を殺めることだ。児童の虐待死は、心中を除けば0歳児の犠牲者が4割。その8割以上が0歳0ヵ月の生まれて間もない子供なのだ。

実際、この種の事件は毎年何件も報じられており、昨年12月にも岐阜市内の神社で、捨てられたリュックの中からへその緒がつながったままの嬰児の遺体が見つかったことがニュースになっている。

マスメディアはこうした事件が起こると、母親の貧困が原因だというニュアンスで報じることが多い。学生やシングルマザーが望まぬ妊娠をして育てられないので殺害したのだ、と。

しかし本当にそうなのか。

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たとえば、静岡県下田市で起きた嬰児連続殺害事件の犯人は、実家や叔母の家で暮らしていた。ファミリーレストランとコンパニオンの仕事の給料に児童手当を加えれば、収入は毎月28万円ほど。

だが、彼女は高校2年生の時から約10年間の間に夫や恋人の子供を8人も妊娠し、そのうち生きているのはわずか3人だ。

何かが異常だ。にもかかわらず、彼女が嬰児殺しをした原因を、貧困のせいと言い切れるだろうか。

こうした事件は1年に覚えられないくらいに起きている。女子高生がトイレで赤ん坊を生んで便器に捨てた、ゴミの中から生まれたばかりの赤ん坊が見つかった、家の中から赤ん坊のミイラが発見された……。だが、メディアはどの事件もしっかりと検証せず、その場かぎりの報道しかしない。

私は『「鬼畜」の家~わが子を殺す親たち』(新潮社)という著書で、嬰児殺しと呼ばれる事件を深く取材した。その中で気づいたのが、嬰児殺しをした女性たちが持っている一つの共通する特性だ。

拙著で描いた下田市嬰児連続殺害事件を例に、そのことについて考えてみたい。

 

「天井裏の子」と「押し入れの子」

下田の事件の被告は、高野愛(逮捕時28歳)だ。舞台は伊豆半島の南、砂浜やヨットが停泊する港が広がる観光地である。冒頭に述べた下田市の犯人とは、彼女のことである。

愛は3人姉妹の長女として育った。母親は若い頃に働きに行っていた神奈川県で知り合った男性と恋仲になり妊娠。未婚のまま下田に帰って産んだのが愛だった。その後、たまに下田にやってくるその男性と関係しては、次女、三女と出産するも入籍することはなかった。

母親は気性が激しく高圧的な性格で、人の意見にまったく耳を傾けず、マシンガンのように自己主張だけをした。しかも主張の大半が自己本位で意味を成さなかった。愛は長女としてその母の罵詈雑言を一身に受けて育つことになった。

妹の1人はこう語る。

「お姉ちゃんは、何を言われても『はい、はい』ってすべてを受け入れる性格なんです。そうなったのは、お母さんの責任だと思います。お母さんが何を言っても怒鳴ってばっかだったから、お姉ちゃんはいつも『思考停止』しちゃう。何も考えずに、どんなことでも従っちゃうんです」

困難に陥った時、「思考停止」してその状況を受け入れる。彼女にとって、それがこの家庭で生き抜く手段だったにちがいない。