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インパクト抜群!消えた「俗語」たちが浮かび上がらせる日本の風俗史
「オストアンデル」って一体なあに?

生まれては、消える「俗語」

「オストアンデル」「スワルトバートル」「ヒネルトジャー」ということばをご存じでしょうか。それぞれ饅頭、袴、水道のことです。

こんなおもしろい外来語もどきのことばが50年前までは使われていました。

また戦前、女性の顔の醜いことを意味した「人三化七」という強烈なことばがありました。数年前に頭文字を使った「KY」(空気が読めない)が流行しましたが、すでに戦前に海軍士官が隠語に使用した「MMK」(もててもててこまる)がありました。20年ほど前には「まじむかつくころす」の意味で使われました。

昭和初期から戦後まで使われてきた「アベック」が今や「カップル」に取って代わられ、同様に「ランデブー」が「デート」に取って代わられました。戦前の学生語「エッセン」(食事)、「ゲル」(お金)、「ドッペる」(落第する)、「メッチェン」(若い娘)はドイツ語由来のことばですが死語になりました。以上のことばが消えて行ったのはどうしてでしょうか。

私がこれまでに研究対象にしたことばは、新語・流行語・若者語・老人語・集団語・業界用語・隠語などといった、その多くが俗語に属するものです。初めに取り上げた「オストアンデル」以下の語が俗語に分類されます。

俗語とは、話しことばの中で改まった場では使えない(使いにくい)ことばで、そういう意味で一般語とは反対に位置します。

俗語というと卑俗な下品なことばかと軽視されがちですが、実際は生活に不可欠のことばです。俗語は一般語以上に感情・心情をストレートに強く表現でき、また、相手への悪い印象やその場の雰囲気を和らげたり笑わせたりする働きがあり、さらに会話のテンポを良くする働きがあります。

このような俗語は次々に生まれる一方で、次々に消えて行きます。

ことばの発生には社会の世相や価値観、流行を反映することがしばしば見られるように、ことばの消滅にも同様のことが言えます。

俗語は人々の言語意識・価値観・時代背景、大きく言えば文化を反映しているからこそ、言語観や価値観や時代が変われば消えて行きます。それゆえに消えて行った俗語は世の中の変化を見る格好の材料です。

30年近く前に出版した拙著『新語と流行語』は発生・流行のわけを探った本でしたが、このたび講談社選書メチエの一冊として出版した拙著『俗語発掘記 消えたことば辞典』はその逆に明治から現在までに消えて行った俗語を辞典風に記述しながら、消えて行ったわけを記し、世の中の変化を見ました。

初めに挙げた語は本書に取り上げたものです。詳しく知りたい方は是非ご購入ください。

 

俗語をめぐるトリビア

本書は従来の死語辞典類とは大きく異なる点が二つあります。

一つは俗語に絞ったことです。従来の死語辞典類は制度や衣食住の名称、雅語、四字熟語などを取り上げ、俗語を扱ったものではありません。筆者は40年間、俗語の収集と研究を続けてきた成果の一部を「消えて行った」という観点から本書に記述しました。

もう一つは「辞典」にしたことです。

一般的な考え方では、辞典とは漢字の読みを調べたり分からない意味を調べたりする字引を指すことが多い。しかしここで言う辞典とは、いつからいつまで使われているのか、誰がどんな意味でどんな使い方をしたのか、実際の用例は何か、また現在、国語辞典に掲載されているのかどうか、類義語はあるのか、同様の造語法で造られたことばはあるのか、などを記述したものを指します。

本書はできるだけことばの辞典の要素をつめこみ、中でも実際の用例は重要な情報を含むので、筆者が収集した用例を多数入れました。

本書で取り上げた俗語に、以下のことばがあります(一部)。

アメしょん・安本丹・イット・インハラベビー・衛生美人・江川る・エンゲルスガール・おかちめんこ・銀ブラ・ゲバ・高等遊民・サイノロジー・薩摩守・シミチョロ・シャッポを脱ぐ・素敵滅法界・退治る・チョベリバ・チョンガー・テクシー・出歯亀・土曜夫人・とんでもハップン・ニコポン・ぬれ落ち葉・話がピーマン・パングリッシュ・ヒコページ・フィーバーする・瘋癲・ヘビーをかける・骨皮筋右衛門・モダンガール・宿六・山の神・ヨルバイト・よろめき・ラシャメン・寮雨・ルンペン・れこ・ろう勉

読んで新発見をしたことをだれかに自慢げに話してみてください。

読書人の雑誌「本」2017年1月号より