企業・経営
政治工作を怠ったツケ?トヨタがトランプに狙い撃ちされた本当の理由
「経済戦争」のウラを読む

通商戦争の再来!?

米国の次期大統領、ドナルド・トランプ氏の矛先がいよいよ日本企業に向いてきた。トランプ氏は得意のツイッター攻撃で、トヨタがメキシコの新工場計画を撤回しなければ、重い輸入税を課すと述べた。

この発言を受け、米国駐在歴が長いトヨタOBは「今のトヨタはトランプ政権を甘く見ている。かつての通商戦争のような日米摩擦が起こる可能性がある」と指摘する。

トランプ氏のツイッター攻撃には事実誤認も多いと言われる。今回のトヨタに関する発信でも、新工場の建設地などが間違っている。そもそも、トヨタのメキシコ戦略は日本メーカーの中では周回遅れで、日産自動車やホンダ、マツダの方がメキシコでの生産体制は進んでいる。トランプ流思想に基づきメキシコへの投資によって米国の雇用が失われるのであれば、トヨタ以外の日系メーカーに矛先が向けられるべきである。

しかもトヨタは1995年の「日米自動車合意」以降、現地生産を加速させるために対米投資を増やし続け、この20年間で累計219億ドルつぎ込んできた。雇用面での貢献も計り知れない。

2015年秋には米ケンタッキー工場内に3億6000万ドルを投資して、「レクサスES」の新工場を建設した。米国では初となる「レクサス」の生産に取り組み始めたのだ。多くの米国人を採用して国内工場に負けない品質ができる体制を構築している。
 
そればかりではない。ケンタッキー州とオハイオ州の境界近くにある北米での開発・生産統括会社内にあるトヨタ・プロダクション・システム・サポートセンタ(TSSC)は、「かんばん方式」などを格安で社外に伝授するコンサルティング組織だ。

2011年にはTSSCをNPO化して社会貢献としての位置づけを強化、米国の病院や自治体などに業務改善を指導している。TSSCの社員16人のうち日本人は2人のみだ。現地採用の米国人が「かんばん方式」を指導できるように育成している。

これほどまでにトヨタは米国への投資と雇用を大切にしてきたが、トランプ氏はトヨタをやり玉に挙げる。ここには明らかに政治的な意図があると見ていい。

「投資額や雇用数といった事実とは関係なく、米国人のハートに訴える分かりやすい作戦」(前出トヨタOB)との指摘もある。かつて日米通商摩擦の頃、米国の議員らが日本製品をハンマーでたたき崩していたパフォーマンスの類とも見て取れる。

しかし、これを侮っているとトランプ人気と相まって、トヨタたたきが日本たたきに繋がりかねないリスクが高まってくる。

 

米国は市場がオープンな国というイメージが日本ではあるが、一面それは正しいものの、別の一面もある。国益にかかわることでは非常に排他的で保護主義である。「うちの国で商売をするなら『場所代』を払え」と言わんばかりの態度で迫ってくる。

日本に自動車を輸出する場合関税はゼロなのに、米国に輸出する場合、GMやフォードが収益源としている「ライトトラック(大型SUVや大型ピックアップトラックなど)」には高関税が今でもかかる。これは自国の産業を保護するためである。
 
トヨタは事業を通じてこうした米国の特性を見抜き、細心の注意を払いながら米国戦略を進めてきた。トヨタにとって米国での販売台数は連結販売台数の3分の1程度を占め、収益の大半を米国で稼いでいる。虎の子の市場であるが故に細心の注意を払ってきたのである。中でも対米政治工作では、元閣僚や有力閣僚につながる親族といった優秀なロビイストを雇い、共和党と民主党の両方に太いパイプを構築してきた。

たとえば、自動車行政に影響力のある運輸長官の弟でロビイストだった人物とつながっていた時期もある。ブッシュ政権(息子の方)時代には、ブッシュ氏の地元のテキサス州に大規模投資を行った。その狙いは、日系メーカーとの競争に負けたGMやフォードが経営危機に陥っても米国政治の矛先がトヨタに向かわないことを狙ってのことだった。

政治に裏から手を回す商売の手法を「汚い」とみる日本人は少なからずいる。しかし、米国で大きなビジネスをしようと思えば、「ワシントン対策」すなわちロビー活動は欠かせないのが実情であり、これがグローバルな「経済戦争」の一面でもある。

あるトヨタ元役員は「ロビー活動にお金を使うのは、通商問題など政治課題が起きてからそれを収拾するよりも結果的にコストが安くつくから。こうしたロビー活動も国際的な事業を展開するうえでは立派な経営戦略のひとつ」と語る。 

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