Photo by gettyimages
エンタメ

『男はつらいよ』で寅さんを一番惑わせたのはこのマドンナ!

立川志らくと佐藤蛾次郎が語り尽くす
佐藤蛾次郎(さとう・がじろう)
'44年大阪府生まれ。俳優。『男はつらいよ』シリーズには柴又題経寺の寺男源吉(愛称:源公)として第8作を除く全作品に出演した

立川志らく(たてかわ・しらく)
'63年東京都生まれ。落語家。日本大学在学中に立川談志に入門。映画評論家としても活動。自他ともに認める寅さん博士の異名を持つ

ワケありのオンナたち

志らく 『男はつらいよ』シリーズはマドンナが良いとやっぱり作品としてのクオリティも高くなりますよね。重要な役柄だけに女優さんにはプレッシャーがかかったことでしょう。

佐藤 渥美清さんは毎回、マドンナ役の女優さんを食事に連れて行ったりして現場に溶け込みやすい雰囲気作りをしていましたね。渥美さんの気遣いがマドンナたちの魅力を引き出していました。シリーズが大ヒットし始めてからは「今度は私かな」と名だたる女優さん達がそわそわしていたそうです。

志らく 何か事情を抱えているマドンナが寅次郎と出会うことで救いを得るという展開が多いんですが、実は初期の頃はそうではなかった。

佐藤 第1作の光本幸子さんが演じた冬子なんかは男を魅惑し、あっさり振る「魔性の女」でした。

志らく 第7作の榊原るみあたりからマドンナ像が変わり始めましたね。

佐藤 るみちゃんが演じたのは、東北弁を話す知的障害を持つ少女でした。

 

志らく さらに第8作の池内淳子は、子供のいる美しき未亡人の役。このあたりで事情を抱えたマドンナの登場が定番になってきた。

佐藤 東宝の都会的な喜劇とは違って、『男はつらいよ』は松竹の蒲田撮影所の時代から続いているペーソスのある喜劇。マドンナにそうした背景は必要だったんでしょう。そこに、山田洋次監督の優しさが滲んでいるのが『男はつらいよ』の真骨頂です。

吉永小百合のインパクト

志らく 今さらですがこのシリーズは非常に優れた人情喜劇ですよね。第9作では清純派の大スター吉永小百合が登場します。

佐藤 日活のナンバーワン女優が、松竹の『男はつらいよ』に出るんですから話題になりましたよ。

志らく もちろん『男はつらいよ』はすでに人気映画だったけど、吉永の出演でさらに世の中に認められる作品になったと思いますね。

佐藤 小百合ちゃんは本当に普通の飾らない人でね。この作品の打ち上げが箱根であったんですけど、その時電車で行っていた僕に小百合ちゃんが「蛾次郎さん、明日、私の車で一緒に帰らない?」って声をかけてくれたんです。二人とも世田谷に住んでいたんでね。

天下の吉永小百合と同じ車で帰れると思ってワクワクしていたんだけど、翌日いざ帰ろうとしたら「おい、蛾次郎。俺と一緒に帰るぞ」と山田監督の天の声。もうそうなったら「ハイ、わかりました」って従うしかない。

志らく せっかくのドライブデートがフイになったんですね。

佐藤 ねぇ。もしかしたら手ぐらい握れたかもしれないのに。