まもなく新しい「主人」を迎えるホワイトハウス〔PHOTO〕gettyimages
アメリカ
「トランプには幻滅した!」新政権の足元を静かに揺さぶる不穏な動き
ティーパーティ運動の系譜から読み解く

リバタリアン派から噴き出す不満

前回の論考で述べたように、共和党とトランプ次期大統領の間には微妙な距離感がある(gendai.ismedia.jp/articles/-/50637)。しかし、大統領府と議会を掌握する千載一遇のチャンスを最大限に活かすため、共和党本流や宗教保守派も「内戦」は封印していく構えだ。

他方、不穏な動きを示しているのはリバタリアン(完全自由主義)派である。

同派若手ホープのランド・ポール上院議員(外交委員会)は、ジョン・ボルトン元国連大使の国務副長官案の浮上を受け、いかなる国務省要職にも就けさせないとして、民主党と連帯してでも承認阻止の意向だ。

ランド・ポール上院議員〔PHOTO〕gettyimages

経済閣僚への反発も強い。ティーパーティ派の元下院議員で保守系論客のジョー・ウォルシュは、政治評論家ショーン・イリングとの対談で怒りを露にしている(政治サイト「Vox」2016年12月8日)。

「トランプが膿を出してくれることを期待していたのに、幻滅した。財務長官と商務長官にウォール街のインサイダーを抜擢したが、最低だ。ゴールドマン・サックスの奴を行政管理予算局長に検討中のようだ(筆者注:ゲーリー・コーンのことを指しているが、コーンは後に国家経済会議委員長候補に)。誰かゴールドマン・サックスに関係していない奴を探せないのか?」

彼らは「反トランプ」保守なのか。系譜を少し振り返っておく必要がある。

トランプの勝因には「保守側の事情」と「リベラル側の事情」が別個に存在しているが、以下は「保守側の事情」だ。

ティーパーティ運動の分裂

第1に「保守運動内分断」、具体的にはティーパーティ運動の分裂である。

 

ティーパーティ運動は元々、財政保守・リバタリアン運動で、軍事面では孤立主義的だが、貿易では自由貿易的だった。

運動の起源は2009年の「反オバマ」ではない。ブッシュ息子政権の「大きな政府」への反発だ。2008年金融危機でブッシュ政権が公的資金でウォール街を救ったことが決定的だった。初期のティーパーティ活動家は「共和党に心底幻滅した」と口を揃えた(拙著『分裂するアメリカ』2011年、久保文明編『ティーパーティ運動の研究』2012年)。

ところがオバマ政権成立で、「反ブッシュ(反・偽保守)」から、運動の比重は「反オバマ」に移った。すると途中から、財政保守以外の「各派」がティーパーティ運動に混ざってきた。「反リベラル」なら誰でもウエルカムの状態になったのだ。

社会・文化保守のキリスト教保守や反移民層のプアホワイト、そして軍事的に関与主義のネオコン・親イスラエル派が2010年以降に割合を増し、地域も南部色が強まった。

リバタリアンと宗教保守の抗争

「合流」により、内政では、リバタリアンと宗教保守派が割れた。

リバタリアンはおおむね憲法原理主義で、中絶の是非も結婚の定義も州が決めればいいと考える(修正10条の州の優越)。しかし、反人工妊娠中絶、反同性婚の宗教保守派とは相容れない。

また、原理的リバタリアンは、連邦政府の道徳問題への介入を嫌い、「愛国者法」にも反対、マリファナ合法化と同性婚には賛成で、穏健な移民制度改革に前向きだ。「白人キリスト教徒の道徳的な国」を維持することに興味がない。

ロン・ポール元下院議員は、2010年に起きたニューヨークのモスク建設論争で建設擁護だった。リバタリアンにはムスリムも多い。反税金運動で知られる全米税制改革協議会のグローバー・ノーキストも移民制度改革には賛成派だ。

結局、彼らが折り合える社会文化争点は、憲法修正2条の死守による「銃規制反対」しかなかった。