(左)柴那典(音楽ジャーナリスト)、(右)矢野利裕(批評家、ライター、DJ) 〔PHOTO〕岩本良介
エンタメ

ジャニーズはなぜインターネットをガン無視するのか?

戦後日本文化の「特異点」を語る

2016年はSMAPの解散で幕を閉じた。日本の音楽シーンはこれからどうなるのか? ジャニーズの未来は?

音楽業界の構造的変革を論じた話題書『ヒットの崩壊』の著者・柴那典氏(音楽ジャーナリスト)と、ジャニーズを戦後日本のあり方に関わるカルチャーとして捉えた『ジャニーズと日本』の著者・矢野利裕氏(批評家)による新春特別対談をお届けします。

(構成・長谷川賢人/写真・岩本良介)

ネットにのらないジャニーズの特異性

 2017年になって、「2010年代はこういう時代だった」ということが、そろそろ明らかになってきたと思うんです。僕は2010年代はまさに「スマートフォンとSNS」のディケイドだったと考えています。

あらゆるエンタメやカルチャーがスマートフォンという新しいテクノロジー、SNSという新しいアーキテクチャにどう対応するか、あるいはどう反目するか。

それをある種「強いられた」のが2007年から2017年の10年間である……僕はヒットの崩壊でそういったことを書いたのですが、矢野さんがこのたび論じたジャニーズについては、ほとんど触れられなかったんです。

なぜなら、インターネットに対して、ジャニーズは2017年の今なおとても距離を取っている。本当に特異的な、世界レベルでも他にないくらいのスタンスだと思います。

柴那典氏

矢野 インターネット、ガン無視ですからね(笑)。

 その国のポップカルチャーの象徴、まさに「国民的」といわれているアイドルがインターネットに音源はおろか、顔すら見せない。ヒットの崩壊では、スマートフォンやSNSの時代にどう対応するかがこれからのエンターテインメントの前提であると論じているので、真逆の戦略です。

そういえば、いま「国民的」と言いましたが、ヒットの崩壊ジャニーズと日本の共通点として、編集者が付けた帯の言葉にはどちらも「国民的」が選ばれていますね。

矢野 そうですね。今日の対談はその言葉を考える時間になるのかもしれません。「国民的」とはなんぞや。そして、今後はどういうふうになっていくのか。

 ヒットの崩壊では「国民的」と形容詞を付けて語れるエンターテイメントが成立しなくなっている、ということを書きました。音楽でいえば、90年代末にCDの売上ピークがあり、この20年間で「モノ」から「体験」へと消費の軸足も移り変わっていった。

さらに、インターネットとソーシャルメディアの普及によって、人々の興味関心が、宮台真司さんの言葉を借りるならば「島宇宙化」していった。その結果、ブームが局所的に起こるようになり、マスメディアへ大量露出を仕掛ける従来型の「ヒットの方程式」は成立しなくなった。

つまり、人々に起きた価値観の抜本的な変化がその理由である、という考えです。

矢野 宮台真司さんは、『制服少女たちの選択』などの著作で、1990年代から社会が空洞化してきていることを指摘していました。「島宇宙化」という言葉も、そのような共通体験がなくなった状況をあらわすものです。

でも、日本の音楽は1990年代を通じて、かろうじて共通体験を維持していたんですよね。理由のひとつにはカラオケや広告タイアップが生きていたんだけれども、2000年代くらいからインターネットの登場もあって様相が変わっていく。その潮流からAKB48のような存在が出てきたと。

 AKB48は2005年にスタートしています。AKB48はメンバーの女の子たちがそれぞれ発信し、ファンがそれを盛り立てたり、起こっている事象に介入することで現象が拡大していった。そういう意味では、とてもソーシャルメディア的なアイドルであったと思っています。

 

矢野 一方でジャニーズは、ファンの声をシャットダウンして、強固な世界観で囲い込んだ上で見せていくことを一貫して続けています。

その態度が行き過ぎたほうに出ると、肖像権を厳しく守ってインターネットに露出をしないみたいなことになる。今ならYouTubeにちょっとくらいアップしたほうが話題になりそうなのに。

その理由のひとつは、一見さんを必死に取り込まなくても、一定のパイを獲得できるからです。ファンは「ジャニーズ」の楽しみを強固に自分の中で再生産しますからね。あとは、なによりジャニー喜多川さんの「やりたいこと」が明確にあるので、それをいろんな形で打ち出していくモデルなのも大きいです。

 ジャニーズと日本でも、ジャニー喜多川さんの「やりたいこと」を常に見据えて、ジャニーズアイドルの表現やショービジネスを、時系列に沿って論じていますよね。

矢野 ええ。そこからSMAPがいかに「国民的アイドル」となり得たかについても書いています。柴さんはヒットの崩壊で音楽の未来に対してのありうる形を見せてくれていると思うのですが、ジャニーズは今後どちらの方向性も考えられるんです。

時代に反して、良い言い方をすれば媚びずにやれることは希望でもある。方や、2016年にはSMAPの解散もあったからこそ、今のままのジャニーズから変わるべき曲がり角のような気もする。