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ボブ・ディランに負けない傑作ぞろい!2016年の海外小説ベスト12

年末年始にじっくり読みたいオススメ本
鴻巣 友季子 プロフィール
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やっぱり、古典名作は面白い

11 シャーリイ・ジャクスン『絞首人』佐々田雅子/訳 文遊社

半世紀以上前に没しながら、本国アメリカでも日本でも、いま再評価が盛んな異色作家シャーリイ・ジャクスン。人の心のいびつさや異様さを描く心理ホラーの達人です。

わたしはここよ――『絞首人』の主人公は17歳の大学生ナタリー。作家の父親の強い束縛から逃げて、大学生活を送っている。筋書はシンプルで、若い女性の目覚めを描いた「日常小説」。なのに、底知れず不気味で、とてつもなく不安を搔き立てる。

ホームパーティの翌朝、「何もなかった」「おぼえていない」と繰り返すヒロインの身に何が起きたのでしょう? 近親相姦的関係、同性愛、レイプなどの性的ほのめかし。記憶の操作と抑圧……。

読者はナタリーと共に最終バスに乗って、暗い森をさまようことになるでしょう。森の奥から引き返してこられるかどうか、それは保証できません。(今年日本では、『日時計』『鳥の巣』『絞首人』『処刑人』)が訳され、名作『くじ』の何度目かの文庫化で、ジャクスン・イヤーとなりました)

12 『ポケットマスターピース12 ブロンテ姉妹』桜庭一樹/編 集英社

昨年配本を開始した文庫版世界文学全集「ポケットマスターピース」全13巻が2016年12月で完結しました。第12巻の『ブロンテ姉妹』は、画期的な編集方針が話題です。

ブロンテ家はシャーロットとエミリーばかりが有名ですが、三姉妹全員が作家でした。三人の作品を一冊にまとめた文庫は、日本では初かと思います。

しかも、エミリーの著作は『嵐が丘』ではなく詩を7編収め、シャーロットの『ジェイン・エア』はエッセンスをつめこんだ抄訳にし、一方、今世紀になって評価が急に高まっている末っ子アン・ブロンテの「アグネス・グレイ」を全訳で収録。

身分違いの恋、重婚、結婚式でのちゃぶ台返しなどセンセーショナルな題材を扱い、ストーリーテリングの技が冴えるシャーロットの『ジェイン・エア』、二家の確執、宿命の絆、遺産相続など古典的なテーマを扱いながら、ポストモダン的な物語の重層化と解体にむかう『嵐が丘』

それに対して、アンの「アグネス・グレイ」は(桜庭さんいわく)「一歩ひいたところから社会全体を眺める、”静かなる傍観者の目”」をもつ。謎が謎を呼ぶブロンテ三姉妹の物語万華鏡、ぜひ年末年始に。

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