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ボブ・ディランに負けない傑作ぞろい!2016年の海外小説ベスト12

年末年始にじっくり読みたいオススメ本
鴻巣 友季子 プロフィール

作者と同名の語り手が登場する2冊

6 エドゥアルド・ハルフォン『ポーランドのボクサー』松本健二/訳 白水社

語り手が「エドゥアルド・ハルフォン」と名乗る、自伝と虚構のはざまにある不思議な作品集です。

ハルフォンはグアテマラのユダヤ系一家に生まれ、母語はスペイン語ですが、イディッシュ語やアラビア語にも通じ、米国で育ちました。なんとも複雑なバックグラウンドで、アイデンティティの断裂を抱えており、それは作中人物たちにも投影されています。

自分を裏切ったポーランドの言語を二度と口にしなくなった語り手の祖父が、アウシュヴィッツでとった行動とは……。あるいは、出張先の米国で自分をガリヴァーか、「不思議の異邦の国のアリス」のような異物と感じる教授。演奏会で突如、誰も知らない即興曲を弾きだすジプシー系のピアニスト。彼は、音楽には境界はないと言い募ります。

本書自体の作りも融通無碍で、もともとあった短編集「ポーランドのボクサー」の各編と、それらと緩やかにつながる中編2編を合わせ、ジャズのインプロビゼーションのごとく自在にシャッフルして作りあげたそうです。

7 閻連科『炸裂志』泉京鹿/訳 河出書房新社

2016年、注目度ナンバーワンというべき海外作家のひとり。父を想う』『年月日』と合わせて3冊も邦訳が出ました。

作者は元々軍の創作学習班で、体制側の作家としてスタートしたそうですが、その後、大躍進政策や文化大革命、「エイズ村」問題などを赤裸々に描き、発禁処分や出版不可を繰り返しています。

『炸裂志』もまた、作者と同名の「閻連科」という語り手が出てくる、虚実ないまぜの小説です。「閻連科」という有名作家が「炸裂市」の市史執筆を引き受ける、という擬似年代記の形をとりますが、プロパガンダ的な市史を書くわけがない。「炸裂」が巨大な都市へと急成長する陰には、賄賂、汚職、不正選挙、娼婦たちの暗躍などがあります。肉親、夫婦間の裏切り、侮辱、色仕掛け、復讐……。

最初は小さな村だった「炸裂」は「鎮」→「県城」→「市」→「超級市」と行政的に格上げされ、ここに帝国を築いた支配者たちは神のごとく振る舞う。その荒唐無稽な理不尽さを、作者は「神実主義」と呼ばれる現実離れしたリアリズムで描きだします。

閻連科いわく、「検閲に壁はあるかもしれないが、わたしの心の中に壁はない」。