Photo by GettyImages
医療・健康・食 生命科学
羽生善治が訊く「山中先生、iPS細胞で人間は幸せになりますか?」
研究の現在地と未来

万能細胞=iPS細胞の誕生から10年、いま研究はどこまで進んでいるのか。ヒトの受精卵のゲノム編集、スーパードナーの存在、iPS細胞の未来について、山中伸弥教授に最強棋士・羽生善治が訊く。

(二人が人工知能の未来について語った前編はこちら http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50589

3Dプリンターで臓器を作る

山中 iPSの研究は喜ばしいことに、日本の研究者が頑張っているんですよ。

羽生 そうなんですか。

山中 iPS細胞から精子や卵子といった生殖細胞を作ることがネズミでできているし、サルや人間も含め研究されています。

羽生 3Dプリンターで臓器を作るという技術も。

山中 これも10年くらい前は笑い話でした。今やそれを実用化しようとしているグループがいくつもあります。

羽生 そんなものができるとは想像もできませんものね。

山中 かたやガンの撲滅は僕が医学部を卒業した'87年当時、「'00年には完全に達成しているだろう」と予想されていました。もちろん治療技術は進みましたが、まだまだ克服できていません。科学の発展スピードは予想しにくいと痛感しますね。

Photo by iStock

羽生 進む速度は研究にどれだけ力を注ぐかに左右されるのでしょうか?

山中 それもありますが、やっぱりブレイクスルーが起きるかどうかですね。研究は原動力となる一人二人の天才的な研究者がいると一気に進みます。生命科学の分野で、この十数年の最大のブレイクスルーはiPS細胞の開発とゲノム解読技術です。

ヒトゲノム計画には世界中の研究者の協力と数千億円もの資金、10年以上の歳月をかけて、'03年段階で一人の人間の全ゲノムを解読しました。今はここ、iPS細胞研究所でもやっていますが、一人のゲノム解読が1週間、100万円足らずでできます。

'03年当時、それを予想した人は少なかったと思います。

 

羽生 クリスパー・キャスナイン(ゲノム編集技術の一つ)も開発されました。

山中 はい。さらにクリスパー・キャスナインができて、ゲノムを解読するだけじゃなくて、今度は自由に書き換えることができるようになりました。

5年前はゲノム編集ができても効率が悪く正確さにも欠けていましたが、クリスパー・キャスナインの開発で飛躍的に改善されました。これが私たちの研究の醍醐味かもしれません。

羽生 ヒトの受精卵のゲノム編集をしたという報告もありますが、その辺りのルール作りは大丈夫なんでしょうか?

山中 この分野の研究者が集まってルールを決める動きがあります。受精卵を使った基礎研究はやってもよいが、その受精卵から新しい生命を作ることは当面やめよう、というのが、今の多くの研究者のコンセンサスだと思います。