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『コンビニ人間』だけじゃない!2016年必読の日本小説ベスト12

年末年始に読んでおきたいオススメ本
鴻巣 友季子 プロフィール

手紙の狂気

LINEでの不倫発覚が話題になった2016年ですが、古風な手紙小説をお勧めします。昔の女性は自由に動き回れなかったので手紙を書いて待ち、その待ち時間に物語が生まれたと、あるイギリスの評論家は言います。

文は届いたのか? 読んでくれたのか? 返事は?

瞬時にやりとりされるLINEと違い、手紙は情動を煽り、人を狂おしくさせるようです。ウェルテルだって恋情をあんなに縷々(るる)手紙に綴らなければ、死なずに済んだ気もするんですよ。

6 井上荒野『綴られる愛人』集英社

冒頭いきなり示される書面では、ある人間の殺害をめぐって、男女の間で迂遠な瀬踏みが行われています。女は35歳の人気作家、男は21歳の大学生。ふたりはふとした思いつきから「綴り人の会」という文通会に登録。お互いに偽名を名乗って密やかな文通が始まりました。

どちらが綴る嘘のなかにも、真実はいくらか含まれていて、いつしか手紙の世界がリアルワールドになっていく怖さ。どこまでが演技で、どこまでが本気なのか? そして、ここに綴られているものは、本当はなんなのか? 最後の最後まで、二転三転で何度もぞっとさせる井上荒野文学の真骨頂です。

7 辻原登『籠の鸚鵡』新潮社

絶品のクライムノベルです! 舞台はバブル前夜の和歌山。現実にあった公金横領事件をモデルに、その背景となる山口組と一和会の仁義なき戦いを徹底取材した迫真の「ファクション(半史実小説)」……なのですが、「昭和ノワール」ともいうべきのどかさと、作者一流のユーモアが最高です。

ヒロインは暴力団若頭の情婦で、バーのマダム。常に男の言いなりで、無意識のうちに「あなた色」に染まる。松下電器の上役と不倫すれば、「きみ、商品を抱いて寝たことあるか?」と寝言で言います(笑うところです)。男の口癖を意味も理解しないまま口真似する、まさに籠の鸚鵡。

ところが、この女、いじらしく見えて途轍もなく怖い。男に深く同化して、思い通りに操る「天然人たらし」なのです。

たらす手口はいやらしさ全開の手紙。「いまわたし、このお手紙、気持ちをこめて、全裸で……」とても引用できません! 手紙に狂わされた堅物男の変貌ぶり、その目の凄み。息もつかせぬ終盤の展開。籠の鸚鵡とは誰のことか、読後気づくでしょう。