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なぜいま中東では「独裁の復活」が起こっているのか?
大混迷の構造を読み解く

キーワードは「逆廻し」

2016年の中東情勢を一言で表せば、「逆廻し(リバース)」であろうか。

2015年の終わり頃から、中東各国の内政や外交が原点回帰とも言える方向へと進んでいった。その原点とは、2011年の民主化運動「アラブの春」が起こる前の、非民主的で強権的な政治がはびこっていた状況である。

つまり、「逆廻し」とは、「独裁の復活」に他ならない。

それは、中東の混乱をある種の収束へ、言い換えれば、「自由」と引き替えの「安定」へと向かわせるニュアンスを持つ一方で、将来への希望を人びとから奪っていくプロセスでもある。

「独裁の復活」は、なぜ起こったのか。それは、中東政治、広くは国際政治にとって、どのような意味を持つのだろうか。

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エジプトでよみがえった軍政

中東における「独裁の復活」は、各国で民主主義がどの程度実現しているかを表す指数から読み取ることができる(エコノミスト・インテリジェンス・ユニット=EIUの2015年度版報告書)。

地域別で見たときに、世界平均5.5に対して、「中東・北アフリカ」は3.58。6位の「サハラ以南アフリカ」の4.34を抑えて、堂々の最下位(7位)である。この順位は、過去10年以上にわたって変わっていない。

2012年には政変後のチュニジア、エジプト、イエメンで選挙が実施されたことから、一時的に指数は上がったものの、その後の政治の混乱や紛争の拡大により、再び下降線をたどっている。

それが顕著に表れているのが、エジプトである。「アラブの春」によるムバーラク大統領退陣後に国民議会と大統領の2つの選挙の実施されたことで、2012年には民主化の指数が一時的に上昇した(4.56)。

ところが、2013年6月のクーデタによって事実上の軍政の復活したことで、最新版では「春」以前の2010年の水準(3.07)に近い3.18まで落ち込んでいる。

おそらく、こうした数字以上に、市民は「独裁の復活」を肌で感じているものと思われる。実際にエジプトを訪れた研究者だけでなく、当のエジプト人たちも、口を揃えてムバーラク時代よりも強力な「警察国家化」が進行していると言う。

 

そのことを象徴するのが、同国最大のイスラーム主義運動であるムスリム同胞団に対する苛烈な弾圧であろう。

かつてのムバーラク時代には、ムスリム同胞団は政治活動を禁じられていたものの、傘下のNGOや医療機関を通した社会活動は実質的に許可されていた。それゆえに、「アラブの春」後の選挙で国民からの少なからず支持を得て、(自由公正党の名で)国民議会与党第一党と大統領の座を獲得した。

しかし、クーデタ後に樹立された暫定政権は、ムスリム同胞団をはじめとする無数のイスラーム主義運動を「テロ組織」に指定し、その非合法化や強制解散に踏み切った。

スィースィー大統領は、ムスリム同胞団の社会活動については黙認の姿勢を見せてはいるが、「アラブの春」後の選挙によって権力を得たエリートや幹部たちだけでなく、数千人規模で一般のメンバーが逮捕・拘留・起訴されている。

むろん、比較政治学的に見たときに、こうした強権的な支配が安定的に持続する(つまり民主化を阻止し続ける)かどうかについては、議論の余地がある。なぜならば、社会に対する強すぎる締め付けは市民からの不必要な反発を生み、暴動や革命の蓋然性を高めるからである。

いわゆる独裁者のジレンマである(拙稿「中東で民主主義が定着しない『本当の理由』」)。