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世界に羽ばたく日本人の国民食「カレー」 、その進化の最前線を追う

ココイチ英国進出、ドリップカレー…

ココイチに先を越された!

あの日本最大、いや世界最大のカレーチェーン「ココイチ」が、イギリスに進出することになりそうだ。2016年のカレー業界を振り返った時、そのことが真っ先に頭をよぎる。

カレー店チェーン「CoCo壱番屋」を運営する壱番屋(愛知県一宮市)は、新たに英国とインドに出店する方針を明らかにした。

カレーのルーツはインドである。そのインドのカレーがイギリスを経由して日本に伝わったのは、今から約140年ほど前。ちょうど明治維新のころである。日本で独自に進化したジャパニーズカレーを携えたココイチが、そのルーツをさかのぼるようにイギリス、インドでの出店を計画しているというニュースは、衝撃的だ。

インドはともかく、いま、ヨーロッパでは和食の注目度が上がっている。とはいえ、ここ数年で何度もロンドンへ取材で訪れている僕は、ロンドン市内で人気を誇るいくつかの和食チェーンが日本人による経営ではないことを知っている。

薄味でぼんやりしたスープに見たことのないハーブがどっさり盛られた“野菜ラーメン”なるものを、イギリス人カップルが赤ワイン片手に食べている光景は珍しくない。

もちろん、メニューにはカレーもある。特にチキンカツカレーはどこでも人気だが、カレーソースの味もいまいちピンと来ない。あの街にココイチのカレーが進出したら……。

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実は、僕には将来、パリかロンドンでカレー店を出したいという夢があった。おいしいジャパニーズカレーを食べられる店を。具体的にそんな夢を一緒に語り合っていたロンドン在住の事業家の友人に真っ先のこのニュース記事をメールし、感想を聞いてみた。

彼からのメールの返信はシンプルだった。

「うまくいくんじゃないかな」

そうだよね。僕もそう感じている。先を越された、という悔しい気持ち(笑)は横に置くとして、おいしい和食チェーンのないロンドンにココイチのカレーが切り込むわけだから、当然、期待は高まる。僕は急激にココイチのカレーが食べたくなった。

和食じゃないのに国民食

「和食」が日本人の伝統的な食文化だとして、ユネスコ無形文化遺産に登録されたのは、2013年の冬のことだった。当時、ジャパニーズカレーのルーツを取材するために渡英していた僕は、このニュースを滞在先のロンドンで知った。

直後に頭をよぎったひとつの疑問がある。そこにカレーはあるのか? あるはずもない。カレーが和食だという認識を持つ日本人はきっと少ないだろう。

 

ジャパニーズカレーの直接的なルーツとなったブリティッシュカレーがどんなものだったのかを知りたい。それを突き止めようと訪れたイギリスで3ヵ月の滞在中に実感したことは、日本のカレー文化の素晴らしさだった。

バラエティが豊かで奥が深くて、みんなに愛されている。家庭にはおふくろカレーがあり、外に出れば街にはカレー専門店が溢れている。ご当地カレーと呼ばれる地域ごとに特色のあるカレーが開発され、特産品のPRや観光誘致の一翼を担っている。レトルトカレーは何百種類も売られ、湯煎すれば3分でおいしいカレーにありつける。

うどんもラーメンもスパゲティもせんべいも……、周りを見渡せばみんなカレー味だ。こんなカルチャーは世界じゅうどこにも存在しない。

カレーは、国民食ですか? 尋ねられた日本人のほとんどすべてが自信を持って頷くだろう。和食じゃないのに国民食。なんとも不思議な食べ物である。

あれからちょうど3年が経った。ふとまた別の疑問がよぎる。今、日本のカレーは海外の人たちにとってどう映っているんだろうか? 

ラーメンは、今や世界的な人気を誇るメニューに進化したと言っていい。来日する外国人の多くが、日本に来て食べたいものの筆頭にラーメンを挙げるという。パリやロンドンではとんこつラーメンがブーム。満を持して日本の人気店「一風堂」がパリとロンドンに出店した。

カレーはどうだろうか。残念ながら、この日本独自の特異なカレー文化が存在することはほとんど知られていない。