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宇宙科学

この宇宙はどのように始まったのか〜謎解き最前線を村山斉教授が語る

始まりは原子より小さかった!?

宇宙にはミステリーが溢れている。そのヒントを探しに日本が誇る物理学者と謎解きの旅に出よう。

ハワイ・マウナケア山頂に降るペルセウス座流星群。山頂には世界各国の望遠鏡が並ぶ 撮影/竹本宗一郎

宇宙はいつ、どうやって始まったのか

「私たちはどこから来たのか、この宇宙はどうやって始まったのか、これは私たち人類が何千年も考えてきた大きな謎です。そして私もその謎に取り付かれ、挑んできた一人です。

最新の研究では、この大きな宇宙は、実は原子よりもさらに小さな状態から始まったという事実が明らかになりました。

宇宙の始まりとは何なのか。私はその謎を解く旅に出ることにしたのです。

宇宙の始まりを考える上で、一番大事なキーワードは「膨張」です。実は始まりから今に至るまで、宇宙はどんどん膨らんでいることが知られています。

タイ・チェンマイで毎年行われるイーペン祭り。ここでは、たくさんのランタンを一斉に飛ばす風習があります。空に浮かぶランタンひとつひとつが宇宙に浮かぶ銀河だと思ってください。速く上がるものは高く、遅く上がるものは低く飛び、まるで膨らむ宇宙を見ているかのようです。

ですが、空に浮かぶ無数のランタンにも、一斉に放たれる瞬間がありました。それこそが宇宙の始まり。つまり、「膨らむ」という現象が、宇宙には始まりがあったことを証明しているのです」

宇宙は奇跡のようなバランスで成り立っている

小さな状態で始まった宇宙はビッグバンによって、爆発的に大きくなった。下の地図は最新技術によってわかった、ビッグバンから38万年後の宇宙の地図。138億歳と言われる現在の宇宙にとって「幼少期」に当たる姿だ。

CESA and the Planck Collaboration ビッグバンから38万年後の宇宙

この地図は、宇宙の温度分布を表しており、当時の宇宙には温度ムラがあったことが見てとれる。

「ブラジルの北部、レンソイス・マラニェンセス国立公園を上空から見てみましょう。真っ白な砂の上に、雨季に降った雨が溜まった池がたくさん見えます。この景色、先ほどの宇宙の温度分布と似ていると思いませんか。

自然の摂理によって生まれた砂丘のまだら模様。大昔の宇宙の姿によく似ている

砂丘で水たまりができるためには、凸凹がなくてはいけません。これは宇宙も同じ。凸凹がないと、そこに星や銀河を作る物質が集まり、私たちが生み出されることはないのです。そして地図の温度ムラは、宇宙にもこの凸凹が存在したことを示しています」

砂丘の凸凹は風によって生み出されるが、宇宙にも同じように物質を集める何かが存在すると言われている。それは、現在の科学をもってしても解明どころか発見すらされていない、未知の物質「ダークマター」だ。

物を引き寄せる力をもつ、この物質によって、水素やヘリウムなどの物質が集まり、それが星となり、元素が生まれ、我々人類をはじめとした生命が誕生した。

宇宙の謎を解明する上で、もう一つ欠かせないのが「ダークエネルギー」の存在だ。これは引力と逆方向に働く力(斥力)をもつといわれているエネルギー。実は宇宙の膨張は加速しているのだが、その鍵を握るのがダークエネルギーなのだ。

「私たちの宇宙は、ダークマターとダークエネルギーの絶妙なバランスの上に成り立っています。私が宇宙をよく象徴していると思うのが、バランスロックです。

アメリカ・チリカワ国定公園にあるバランスロック。これよりも奇跡的なバランスで我々の宇宙は成り立っている

倒れそうで倒れない。この微妙なバランスで何千年間も立ち続けてきました。まるでこの宇宙のようではありませんか」