不正・事件・犯罪
伝説の未解決事件「三億円事件」、あの時何が起こったのか
完璧な計画か、それとも偶然か

偽白バイで颯爽と現れ、人を傷つけずに巨額の現金を奪った。伝説的な事件はなぜ未解決なのか。犯人はどこに行ったのか。そして消えた3億円の行方は——? 

この事件を題材にした小説『閃光』の作家・永瀬隼介氏、マンガ『三億円事件奇譚 モンタージュ』で犯人と子供たちが辿る宿命を描いた渡辺潤氏、元警視庁公安部の江藤史朗氏が徹底討論する。

今の価値なら30億円

永瀬隼介 三億円事件が起きた1968年12月、私は8歳でしたが、テレビで連日報道されていたのを憶えています。

とにかく印象的だったのは3億円という金額。当時、警察官の初任給が2万3790円。宝くじの賞金が1000万円になり大騒ぎになった年で、「百万長者」なんていう言葉も生きていた時代でした。

江藤史朗 当時の3億円は現在の価値で20億円とも30億円とも言われていますね。

渡辺潤 偶然ですが、私は事件が起きた1968年12月10日生まれなんです。事件の起きた府中ではなかったんですが、東京西部の病院で、その日はかなりざわついていたと親に聞かされました。

永瀬 事件から5年、10年と時間が過ぎても、人々の記憶に強く焼きついていたんですよね。

何しろ、金額だけでなく犯人の手際のよさにも目を見張るものがありました。警官に扮した犯人が偽白バイに乗って現れ、人を傷つけることもなく、3分という短時間で3億円を手に逃げ去った。

事件当年の、あるラジオ番組では「今年カッコよかった人№1」に選ばれたといいます。

 

江藤 同じ未解決事件でも「グリコ・森永事件」などでは、何人もの人が傷つき、陰湿で闇がある印象なのに対し、「三億円」はカラッとしている。

永瀬 関西のグリ森に対して、どこか東京的、都会的な事件ですよね。

江藤 「強奪事件」という表現もよく耳にしますが、法的に言えば、暴力は使っていないから、単なる窃盗です。たった7年で時効になったのもそのためです。しかも、盗まれた3億円にも保険がかけられていた。

渡辺 盗まれたのは東芝府中工場に勤める社員のボーナスですが、事件翌日にはあらためて支給されているんですよね。

永瀬 あの事件をきっかけに、給料の支払いは現金の手渡しから銀行振り込みが主流になっていったらしいですよ。

渡辺 ただ、子供の頃はスマートな犯罪という印象が強かったんですが、『モンタージュ』という三億円事件をテーマにした作品を描くにあたって調べてみると、違う面も見えてきたんです。

『代紋TAKE2』『RRR』の渡辺潤が描く、昭和からの挑戦状!!!

江藤 どんな面ですか。

完璧な計画か、偶然か

渡辺 犯人はたしかに非常に用意周到なんですが、間抜けな部分も散見されるでしょう。たとえば、現場に向かう偽白バイは、雨よけのカバーを引き摺ったままでした。

永瀬 事件直前、偽白バイを目撃した別の商用車の運転手は「あのカバー、車で踏んでやったら面白いな。でも白バイだしまずいか」と思ったなんて証言している。かなり目立っていたんですよね。