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間もなく地方都市を襲う「老朽マンション建替え」という大問題

その数、なんと20万戸超!
貞包 英之 プロフィール

特別な商品としてのマンション

ではなぜ地方では建替えが困難なのか。

それを理解するためには、マンション、またはそもそも住宅の商品としての特徴を知っておく必要がある。

住宅はしばしば、生涯の買い物のなかで一番高価な商品といわれる(二番目は生命保険)。しかしたんに高いだけではなく、住宅は他の商品のように、購入し自由に使って終わりとはならない特徴をもつ。

まずこれは嬉しいことでもあるが、住宅は中古でも売れる。主に土地価格が影響するとはいえ、買った時の値段以上が付くことさえある。つまり他の商品に較べ中古市場が整っていることで、住戸を購入した者はたんに使用者ではなく、売り時を細心に計算する潜在的な売り手になることが求められるのである。

他方で、廃棄には多額のコストが掛かる。中古で売るにも限界はあり、最後には住戸は解体されざるをえないが、そのために家電のリサイクルなどとは比較にならない高額の費用が必要になる。

こうした二つの特徴がとくに目立つのが、マンションである。

規格が整っていることもあり、マンションは、戸建て以上に一定の値が付きやすい。実際、分譲マンションの購入者の17.7%が購買の理由として「将来売却した場合の価格が期待できる」ことを挙げており、これは戸建て分譲購入者(8.1%)の倍、注文住宅購入者(4.2%)の4倍以上になっている(「平成27年住宅市場動向調査」)。

ただ他方で解体がむずかしいという問題もある。費用が掛かるだけではなく、老朽化した場合も、多様な居住者の合意を取り付けるといった厄介な折衝が必要になるからである。

この意味でマンションの売買は、「ババ抜き」ゲームのような面を持っている。高値で売るためには、あせらず、またリフォームなど元手を掛けることも大切だが、売り時を逃すと元も子もない。

建替えや解体に多額な費用が掛かるだけではなく、リゾートマンションでしばしばそうなるように、解体の合意を集められないまま、高い管理費や修繕積立金を払い続けるはめに陥りかねないのである。

地方が置かれた「笑えない状況」

こうした商品としてのマンションの特徴が、地方での建替えを困難にする。

問題は、マンションを無償で建替えることがむずかしくなっていることである。

費用を抑え、できるだけ広い換えの住戸を確保するために、多くのマンションではこれまで敷地売却や高層化や大規模化によって新たに住戸を作り、その収益で建設費を賄ってきた。

しかし地方ではそれが期待しがたい。東京同様に容積率ぎりぎり、またはそれ以上に建てられ、さらなる高層化を望めないマンションが多いからだけではない。人口減少や高齢化のため、地方ではそもそも住宅需要がますます限られ、新たな住戸を高値で売り切ることが困難になっているからである。

結局、地方では個々の所有者に建築費がしわ寄せされる。地価が下落によって、解体費に仮住まいに行って帰る2回の引越し費用などを合わせると、新規にマンションを買った方が安いといった笑えない状況まで生まれるのである。

さらに建替え後の住戸に高値がつかないことで、合意形成も困難になる。

マンション需要がさかんな地域では、建替え費用がかさむことは、合意形成を必ずしも妨げない。建替えられた住戸が高値で売れると予想される場合、それをあてに融資を得たり、または引き渡しの権利を売却し、より住居費の安い郊外や地方へ引っ越すこともできるからである。

しかし地方ではそうはいかない。今の経済状況では、建替え後のマンションがさほど高値になるとは期待できず、だからこそ住人は多額の建築費を負担し、また大幅に面積が小さくなることを我慢しても、同じマンションにしがみつくしかないのである。