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人類はいま、大きな「時代の節目」を迎えているのか?
文明探偵の事件簿2016

世界は重大な曲がり角を迎えつつあるのではないか──。そんな予兆にとらわれた2016年が暮れようとしている。私たちはいままさに大きな「時代の節目」に立ち会っているのかもしれない。

はたして文明探偵の目には今年の大事件はどう映ったのか? アメリカ大統領選から芸能界の薬物汚染まで、一本の補助線を引くと、何が起きているのかよくわかります。

文明探偵のお仕事

昨年、講談社から『文明探偵の冒険 今は時代の節目なのか』という新書を出させていただいた。しかしこの記事を読まれている方のほとんどは、「文明探偵」という四字熟語を初めてご覧になったことだろう。どこかの遺跡で発掘でもしている人か、と思われたかもしれない。

一応、公式見解を示しておくと、「科学」と「歴史」という、現代における「直交する二つの強力なモノサシ」を使って、私たちの世界観の淵源を探る者、ということになっている。なんと大風呂敷な。

そしてこの「文明探偵」と私がどういう関係かといえば、シンガーソングライター「ピコ太郎氏」と、そのプロデュースをするお笑い芸人の「古坂大魔王氏」との関係に相当する。この新書は、その作品である「PPAP」にあたるわけだ。知名度は1万倍くらい違うが。

ともかくこの新書は、文明探偵なる人物が、「時代の節目」とは何か、そして今は時代の節目に差し掛かっているのか、という、これまた大変に大風呂敷なテーマを掲げ、モノとコトバの世界を縦横無尽に旅する、ある種の「紀行文」、ということになっている。

そして時代の節目がどんなものかについては、それこそ語り始めればきりがないのだが、一点だけ述べておくと、「時代の節目」はそれが「何年ぶりの節目か」ということに最も注意する必要がある。いわば「時代の周期」という感覚の重要性である。

当然ながら、短い周期の終わりは、頻繁にやってくる。だが人々の実感として、周期の短い事件が些事だと感じられるとは、限らない。波動の「周期」と「振幅」は別のパラメータだからである。

さまざまな周期の波が重なりあい、干渉しあって、時には「三角波」のような巨大な波を作り出すこともあるのが、人類史の恐さであり、また醍醐味である。

と、このように書いても、おそらくさっぱり中身が伝わっていないと思うので、詳細については是非、同書を手にとっていただければ幸いであるが、ここでは、 2016年という時代が文明探偵にはどう映ったのかということを、簡潔にレポートしたいと思う。 

 

グローバル化にNO!

まず世界的に見て、「時代の節目」を最も強く印象づけたのは、やはり大方の予想に反してトランプ氏がヒラリー氏を破ったこと、そして英国民がEUの離脱を選択したことだろう。

前者については、少なくとも8年続いた民主党政権の交代という「節目」であるが、より長い周期の節目がやってきたと考える人の方が多いかもしれない。

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またEUは1993年に発足しているので、23年ぶりに明確に現れた「逆向きの流れ」であるが、「欧州統合」というプロジェクトは第二次大戦後すぐに芽吹いており、欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)設立から数えてみれば、BREXITは実に64年ぶりの大事件ともいえる。

この二つのできごとについては、すでに多くの識者がさまざまな議論を展開しており、ここで新たに議論できる余地はあまりないが、少なくとも二つに共通するのは、グローバル化の流れにブレーキがかかった、ということであろう。

グローバル化がいつから始まったのか、という話も考え始めると大変なのだが、最低でも冷戦終結の時点までは遡れるはずだ。社会主義体制の敗北による、地球レベルでの自由貿易の拡大という観点で見れば、三十数年の周期の節目、ということになる。

だがこれをもし、「近代というプロジェクトの節目」と捉えるならば、一気に10倍以上の長い周期の終わり、ということにもなりかねない。

文明探偵は、案外そんな「とんでもないこと」がすでに始まっているのではないか、などと考えたりもするのだが、もちろん、今は英国が離脱の方向を決めた「だけ」であるし、またトランプ氏がどんな政策を打つかは「まだ」はっきりしない、というのが現状である。

とはいえ、このように事態を矮小化して捉える精神は、時代の趨勢を読み間違う原因になりかねないので、注意が必要だ。

ではなぜ、英米の人々が、グローバル化にNOと言ったのか。

中産階層の没落、移民への嫌悪感、グローバル・エリートへの不信など、さまざまな言われ方があるが、私はもう少し本質的で、かつシンプルな理由ではないかと考えている。

それは要するに、「すみません、もう、カラダがついていかなくなったんですけど」ということではないだろうか。