Personal Gold

この20年でITはスポーツの世界をこんなに変えた
チャンスが広がってきた
(都内で開催された「Helth2.0 ASIA」でスカイ<左>のトークセッションを行った筆者)

先日見たドキュメンタリー映画が頭から離れない。

実力はもちろん、組織力も資金力もないチームが、新しいコーチのもとIT技術用いて強化し、ロンドンオリンピックでメダルを取るサクセスストーリー。

フィクションなら「そんな簡単じゃないよ」と笑い飛ばしてしまう内容だが、これがドキュメンタリー映画だから恐れ入る。「事実は小説よりも奇なり」とはよく言うが、まさにそれを示すような作品である。

映画の名は「パーソナルゴールド」。

主人公は自転車トラック競技である「パーシュート」という種目のアメリカの女子選手たちとコーチである。ロンドンオリンピックの数カ月前に、元自転車選手のスカイ・クリストファーソンは友人であった選手本人に依頼されてコーチを受けた。

しかしチームの支援体制は整っておらず、練習に集中することさえままならない。そこでスカイは自らの持つネットワークと公募で各分野の専門家に手伝ってもらいながら、選手の家族をチームサポーターとして活用。環境を整えやすいスペインにベースを移し集中的にトレーニングを開始した。
 
だが、家族は素人同然だし、専門家たちを帯同させる資金もないので、スカイプで連絡を取りながら進めるという状態。なかなか縮まらないタイムに選手や家族は焦り、苛立つ……。

その内容は映画でご覧いただきたいが、最終的にチームは壁を乗り越えて、見事に短い期間で結果を残すことになる。組織力や資金力なしには強化が難しいオリンピックスポーツの大変さと、努力と工夫、チームワークで驚くようなリザルトを出せるというスポーツの魅力が描き出されたドキュメンタリーだ。
 
ここでの注目は、スカイがIT技術を駆使し、スタッフ不足や資金力のなさをカバーしていることだ。技術やフィジカルのトレーニングも外部専門家とデータを細かくやり取りし、アドバイスをもらう。

チームの組織力や体調管理も同様、必要なデータを集め専門家と共有し、それを選手にフィードバックしていく。たくさんのデータを分析する専門家を入れ、データの持ち腐れにならぬようにしているところも素晴らしい。

 

これからの指導は柔軟な発想が必要

これらは20年前であれば、相当な費用と労力を要したが、データ収集ソフト、機器の発達、解析環境の向上、通信環境の劇的な進化などが後押しした、まさに今時な体制である。

つまりIT技術を駆使すれば、個人レベルでもかなりのことができるようになったということだ。音楽や芸術同様、スポーツにおいてもITのおかげで、高いレベルのトレーニングや情報収集の壁を下げられるようになってきていることがよく分かる。
 
さらに、様々なデバイスを使い、選手の日常生活や体調を管理していることも興味深い。トレーニング内容や栄養分析はもちろんだが、睡眠や選手の体のタイプを細かく分析し、その選手に適切なアドバイスをしていく。

これも大掛かりなメディカルチームを使わず、デバイスから集まるデータをアドバイザーに送りながら分析するという画期的な方法を用いている。睡眠の質を向上させるための工夫など、普通では主観に頼りがちな状態を、客観的なデータ化することにより、選手を納得させることにも成功している。
 
どんなにコーチがアドバイスしても、選手が理解しアクションを起こさない限り継続もなければ、効果も出るはずもない。リアルで客観的なデータを選手に見せながらディスカッションしていくことで信頼関係を増していくのも注目だ。
 
ITが人間の生活を便利に変えていくのは、現代の常識である。さらに、スポーツの世界でもこんなことが可能だというのをリアルに見せてくれた記録映画だったと言えよう。
 
人間の力、資金など足りないものはいくらでもある。でもそれを埋めることができる力がITにはあるということだ。もちろん万能ではないが、その可能性を引き出すのもコーチや関係者次第である。これからの指導者は、今まで以上に固定概念にとらわれず、柔らかい発想が必要だろう。逆に言うと、チャンスは広がってきたのだ。
 
さあ、東京オリンピックまではあと3年半。まだまだ頑張れるぞ!
 
参考資料 映画「Personal Gold」