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「小児医療を変える」画期的な新技術!作ったのはベンチャー企業だった
経営の使命とはなにか、を教えてくれる

日本の製造業の底力

出生時に先天的な心疾患をもつ赤ちゃんは100人に1人程の割合でいて、そのうち2人に1人程度は手術が必要になる。

症状が重篤であれば当然、早期の手術が求められる。しかし、赤ちゃんの心臓は、大人の拳の半分ほどの大きさで、立体構造が複雑であることなどから、ベテランの医師でないと手術に対応できないケースもある。

こうした難易度の高い小児心臓手術の成功率を高めるとされる、画期的な技術が開発された。開発プロセスをみると、まさに医療と工業の連携による成果であり、日本の製造業が見せた底力とも言える。

その画期的な技術とは、国立循環器病研究センターが7日に発表した「心臓シミュレーションモデルの量産化技術」のことだ。実際の心臓に近い肉質感で、内部構造や血管の一部までも忠実に再現し、それを低コストで量産化するもので、世界でも類をみない先進的な技術だという。

これまでも同研究センターは小児心臓のシミュレーションモデルをベンチャー企業のクロスエフェクト(本社・京都市)と共同で開発してきた。今回のポイントは、製造手法と材料に新た技術を導入することによって、従来は完成までに4~5日間かかっていたのを2日間に短縮して、緊急性の高い治療に対応できるようにしたことだ。コストも下がるという。1年後をめどに量産化を目指す。

これまでは患者のCTスキャンのデータから、クロスエフェクトが独自の技術を使ってデータを処理、光造形の技術で鋳型を製造して、そこにウレタン樹脂を流し込む製法で心臓シミュレーションモデルをつくってきた。

ところが今回の新しい手法では、鋳型を造らずに、精密インクジェットプリンター技術を活用することで、ダイレクトに実物に近い心臓模型が造れるようになった。実際の肉質感に近づけるために、世界最高レベルの超軟性インク材も開発された。

新技術の企業側の取りまとめ役はクロスエフェクトだが、半導体製造装置や印刷関連機器のスクリーンホールディングス(本社・京都市)が新しい造形装置を開発した。新材料の開発は特殊界面活性剤などを得意とする共栄社化学(本社・大阪市)が担った。

 

心臓シミュレーションモデルの開発に10年近く前から取り組んできた同センターの白石公・小児循環器部長はこう話す。

「小児心疾患はバリエーションが広く、同じ疾患でも個人差が大きいため、いざ手術の段階になって医師が戸惑うこともある。こうした課題に対応するために、シミュレーションモデルづくりに取り組んできた」

実際に執刀する立場の同センターの市川肇・小児心臓外科部長は「手術のために心臓をいったん止める時間は1時間から1時間30分の間。短期間で手術を終わらせなければならないが、術前に確認できることで手術時間の短縮にもつながる」と説明する。

シミュレーションモデルができたことで、実物に近い心臓模型を使って、手術前に疾患の場所などを確認することで、手術の精度を高めることにつなげたい考えだ。同時に、医学部生や経験不足の若い医師向けの教育にも活用していく。すでに同センターでは研究の位置づけで従来モデルを臨床試験で活用している。

「従来型のシミュレーションモデルは2年後をめどに医療機器として認められ、健康保険も適用されることを目標に努力、準備している。従来型が医療機器として認められれば、新型が認められるまで時間はそれほどかからないのではないか」と白石小児循環器部長は見る。

ここに辿りつくまでのクロスエフェクトの功績は大きい。同社の発想と行動力には学ぶべき点があると筆者は感じる。 

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