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年末年始はこのミステリーにどっぷり浸かりたい!

各種ランキングの傾向と「異変」

師走の声を聞くと、本邦ミステリー界の“お祭りの季節”がやって来る! そう、この一年に発表されたミステリー小説のベスト作品を、識者が投票形式で選出する各種ベストテン企画の結果が一斉に出そろうのだ。

普段は仕事に直接関わりのあるビジネス書や話題に事欠かないよう新書のベストセラーにばかり手がのびている(と思しい)当ウェブサイトの読者のなかにも、年末年始の休みくらい楽しみのための読書にふけるべく選書の参考にしている人は少なくないだろう。

今回、国内部門について紹介と分析を、というのが編集部からのリクエストで、紙幅の都合からも海外部門のほうはスルーすること悪しからずご了解を。

信頼の老舗ベストテン

さて、各種ベストテンのなかで最も長い歴史を持つのが「週刊文春」誌のブック・ランキングだ。同誌1978年1月5日号掲載の「1977年傑作ミステリー・ベスト10」以来毎年恒例の人気企画として広く認知され、今年で記念の40回目。まずはその結果をお伝えしておこう。

■2016 ミステリーベスト10(文藝春秋「週刊文春」2016年12月8日号)
 1 塩田武士『罪の声』(講談社)
 2 米澤穂信『真実の10メートル手前』(東京創元社)
 3 竹本健治『涙香迷宮』(講談社)
 4 宮部みゆき『希望荘』(小学館)
 5 市川憂人『ジェリーフィッシュは凍らない』(東京創元社)
 6 原田マハ『暗幕のゲルニカ』(新潮社)
 7 芦沢央『許されようとは思いません』(新潮社)
 8 島田荘司『屋上の道化たち』(講談社)
 9 雫井脩介『望み』(KADOKAWA)
 10 井上真偽『聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた』(講談社ノベルス)

各種ベストテンの常連、米澤穂信をわずかな差で上回り初めて第1位に輝いたのは新鋭、塩田武士。かのグリコ・森永事件を題材に選んだ野心作で、すでに第7回山田風太郎賞受賞の栄にも浴している。まちがいなく本作が作者塩田の「出世作」と生涯呼ばれることになるはずである。

ところで、主催社である文藝春秋発行の国内作品が今年はひとつもベストテンに入らなかったことが(文春文庫刊行の若竹七海『静かな炎天』の第11位が最高)、じつに投票集計の公正さを証明していると言うべきだろう。

「週刊文春」のベストテンでは、各投票者個人の順位付けが誌面にすべて掲載されるわけではないので、たまにはこうした苦い結果が出ることも老舗ベストテンの信頼度を高める。

各種ベストテン総合1位は?

各種ミステリーベストテンのなかで「週刊文春」のそれに続いて30年近い歴史を重ねているのが、宝島社発行のムック「このミステリーがすごい!」だ。

 

「このミス」なる通称でもおなじみの同ムックは1988年から毎年刊行されており、2002年にはその名を冠した新人賞レース「『このミステリーがすごい!』大賞」も創設されている。

もともと「このミステリーがすごい!」には、日本推理作家協会の会員(大半がプロのミステリー作家)のみが投票者だった「週刊文春」のベストテンに対する一種カウンターカルチャーの意味合いがあった。

プロ作家の読書が、おのおの創作のための資料中心になるのは必定。そのため、純粋に楽しみのためにする読書量は限られる結果、1977年から87年までの11回のうち──すなわち「このミステリーがすごい!」発行以前──じつに8回も当年の江戸川乱歩賞受賞作がランキング第1位の座に押し上げられている。

もちろん乱歩賞は本邦ミステリー・ジャンルにおける新人賞レースの最高峰であり、その受賞作が高評を得ること自体は当然としても、投票者を推理作家協会員に限っている閉塞状況は明らかになっていたわけだ(後年、「このミステリーがすごい!」の影響力伸張に対し、「週刊文春」のベストテンは投票者の拡大・多様化を図って現在に至る)。

ともあれ、ミステリー界にとって画期的なムックだった「このミステリーがすごい!」の最新の結果を紹介するとしよう。

■「このミステリーがすごい! 2017年版」宝島社 2016年12月10日発売
 1 竹本健治『涙香迷宮』(講談社)
(※版元の意向により、ここでは1位作品のみ掲載。2位以下は現物で確認のほどを)

今年の「このミス」第1位の座についたのは、斯界のベテラン、竹本健治だ。明治の傑物、黒岩涙香の波瀾に富む人生に触れる『涙香迷宮』は、囲碁棋士の牧場智久が名探偵役を務めるシリーズ物の最新作であり、凝りに凝った「いろは歌」の暗号に圧倒されること必至の長編ミステリーである。

先の「週刊文春」のランキングでは3位、このあと紹介する「本格ミステリ・ベスト10」でも第4位につけた本作を、今年の各種ベストテン総合1位と認定してかまわないだろう。