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ヒトが口にするものはぜんぶ毒!? 生体異物から見た生命のふしぎ

ふつうの食べものに含まれる危ない物質

生体異物から見た生命のふしぎ

ポテトチップに含まれる発がん物質。マーガリンを構成する不飽和脂肪酸。受動喫煙で浴びる活性酸素。野菜や漬け物に含まれる微量ミネラル……。ごくふつうの食生活から無数の毒性物質が取り込まれている! 

精妙な解毒システムで対抗する人体だが、時には自ら毒物を活性化してしまう。水や塩でさえ健康被害を及ぼしうる一方、ヒ素のような強毒が、少量であれば有用となることも。食の安全や健康の維持に不可欠な「毒」と「解毒」のサイエンス。

 

生活に密接に関係する「中毒学」

私たちが生きていくために必須の食物ですが、その安全性を脅かすさまざまな事件が起こっています。

今なお世界各地で発生している古典的な公害による有害物質の混入はもちろん、放射性物質や発がん物質による被害、遺伝子組み換え作物、怪しげな健康食品や動物に投与される医薬品の残留物、抗生物質耐性菌やアレルギー物質をはじめ、従来は存在しなかった新たなリスクも続々と誕生しています。

築地市場の移転先として大きな話題をよんでいる豊洲市場の問題もまた、その本質は食の安全を脅かすリスクが増すことに対する危惧にあります。

食べものが含むさまざまな毒物――一般に生体異物(xenobiotics)といいますが、これに対するリスクを、科学はどのように扱っているのでしょうか?

食物が潜在的に内包している毒性を研究する学問を、「中毒学」あるいは「トキシコロジー(Toxicology)」といいますが、本書『体の中の異物「毒」の科学』は、中毒学の初歩を解説することで、食物の安全性や健康について科学的に考える基礎――最近の言葉でいえば、食の安全・健康に対するリテラシー――を養っていただきたいという目的で書きました。

「中毒学なんて、自分の生活にどう関わりがあるの?」と疑問をもつ読者もいらっしゃるかもしれません。

けれども、実は、中毒学者は案外身近なところで、私たちの日常生活に大きな関わりをもっています。私を含む多くの中毒学者はふだん、大学などで基礎研究を行っていますが、国民生活に直接関係する問題を取り扱うことがあります。

内閣府に「食品安全委員会」という組織があるのをご存じでしょうか。中毒学が積み上げてきた科学的知見に基づいて、客観的かつ中立公正に食品のリスク評価を行っている機関です。

本文中にも何度か登場するこの食品安全委員会は、たとえば牛海綿状脳症(BSE)が流行した米国からの牛肉の輸入条件について提言したり、食品中の農薬や環境汚染物質、食品添加物、放射性物質などの健康影響評価を行ったりしています。

また、特定保健用食品(トクホ)の審査を担当するなど、食品に関するきわめて広範で重要な役割を担っていますが、歴代の委員長をはじめ、委員のなかに数多くの中毒学者が含まれているのです。

ちなみに、2016年10月の時点では、水銀などの金属による中毒に関する研究に長年従事されてきた佐藤洋博士が委員長を務めています。

一見したところ縁遠く、また地味に思える学問ではありますが、基礎研究にはじまり、実際に食の安全を守る行政の現場にいたるまで、中毒学は私たちの食生活に対して重要な役割を果たしているのです。