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町山智浩さんが「加工なし」で振り返るアメリカ政治の4年間

リレー読書日記

白人たちの最後の抵抗

ラグビーの取材で英仏を回ってきたが、町のにぎわいが違う。イギリスは景気がよく、フランスはどんよりとしている。目的もなく町をうろついている人の数が違うのだ。

両国ともアメリカの新大統領についての報道が多く見られたが、困ったパートナーを相手にしなくては……というスタンスは一緒。町山智浩さんの『さらば白人国家アメリカ』は、トランプが台頭してきたアメリカ政治の4年間を振り返る。

町山さんとはラジオで共演したこともあるが、町山さんの面白さは、日本向けに分かりやすく「加工しない」ことにある。妥協がない。アメリカの世情を知ってないとついていけない話題もあるので、知識のない受け手だと反応が鈍い。

 

本書を読んで感じたのは、「さらば白人国家」とタイトルにあるが、白人たちの最後の抵抗がトランプへの投票行動だったことである。

5月にトランプが大統領候補者として勝利を決定づけた時期に書かれた「共和党は死んだ」という文章はとても分かりやすい。有権者は共和党に呆れてしまい、すべてをぶっ壊してくれそうなトランプを選んだのだ。

まず、共和党には大統領になれる器の人材がいなかったし、共和党の綱領を否定するトランプを前に成す術もなかった。それはメディアも一緒で、雑誌やテレビはテッド・クルーズやマルコ・ルビオなどの特集を組み、持ち上げたりけなしたりしてきたが、結局、なんの影響力もなかった。

「トランプのアメリカ」がどうなるか予測もつかないが、今後、共和党も白人が相対的に減少していく中でその未来は暗澹としている。

トランプが大統領に就任する1月までに読んでおくと、アメリカ政治の流れが整理できると思うが、町山さんの文章でいつも笑ってしまうのは、ひとりでツッコミを入れること。特にトランプへのツッコミは秀逸。「いきなり脅しかよ!」。なんだかアメリカのひとり漫談、スタンダップ・コミックを聴いているようです。

フランス流の子育てに迫る

トランプの政策ではIS対策も注目されるが、パリでは昨年11月に襲撃された劇場、バタクランがスティングのコンサートで再開場して話題になっていた。

私がフランスに滞在したのは週末だったが、目についたのはベビーカーを押す父親の姿。フランスは昨今、合計特殊出生率が2.0前後で推移しているが、なぜ、出生率が上向いたのかを現地からレポートしたのが『フランスはどう少子化を克服したか』。

出生率が上向いたひとつの理由は父親の積極的な育児への参加が挙げられている。まず、赤ちゃんが生まれたら、サラリーマンの父親にも3日間の出産有給休暇が与えられ、それに引き続き、11日連続の「子供の受け入れ及び父親休暇」が制定されている。この制度は労働法と社会保険法で決められており、雇用主が拒むことはできない。

この制度の本質は、ただ一緒に時間を過ごせばいいのではなく、核家族化した現代の家庭環境で、父親の育児スキルを上げることにある。日本には「イクメン」という言葉があるが(私は嫌いだけど)、どれだけスキルがあるかはまた別の話ですからね。

こうしてフランスの国全体が父親の育児参加を促し、社会全体の活性化を企図しているのだ。

著者はこの他にも無痛分娩、保育園と学校の運用や制度の在り方(フランスでは3歳から学校が始まることで保育の負担を軽減している)などに言及しているが、特に休暇制度の拡大、早期の教育開始は日本でもヒントになるのではないか。

炬燵に入って本を読む極楽

出張から日本に帰ってくると、「和」を欲してしまうのは仕方がないか。特に食事と活字。

今年、時代小説で楽しませてもらったのは野口卓さん。今年、年男の72歳だが、書きっぷりは絶好調だ。

新シリーズの『手蹟指南所「薫風堂」』が今年夏に刊行され、「ご隠居さん」シリーズの第5作『還暦猫』が出た。まったく毛色の違う作品だが、読後感が爽やかなのは一致している。

特に始まったばかりの「手蹟指南所」シリーズは、大きな可能性を秘めていそうだ。主人公の浪人、雁野直春は辻斬りに遭っていた老人を助けたのが縁となり、手習所の跡取りとなる。しかし直春には複雑な家庭事情があり、ややこしい縁談が持ち込まれたりする。

直春の手習所での佇まいが爽やかだ。一方で悪役の造形も見事で、今後、直春がどんな窮地に追い込まれるのかも気になって仕方がない。

また、「ご隠居さん」シリーズには安定感が増してきた。これまでにも登場したエピソード(「曰く付きの鏡」)が違った形で発展しており、シリーズとしての「連関性」が出てきた。年末、炬燵に入って野口さんの本を読むのは極楽だと思う。

週刊現代』2016年12月17日号より