Photo by gettyimages

「料理の鉄人」演出家が明かす、番組の土台となった食ネタ本
極上の味が、本の中にあった

最初の小説は料理本がネタ元

子供の頃は、江戸川乱歩の『怪人二十面相』や歴史物が好きでした。山岡荘八や吉川英治もその頃読んでいて、たしかに文章は難しかったけど、テレビで時代劇とか大河ドラマをよく観ていたから、話のあら筋がわかっていたので読めたんです。

ただ、中学、高校になると徐々に陰気な少年になっていって(笑)。読む本も太宰治や志賀直哉、梶井基次郎といった類いのものばかりでね。彼らと気分を共有したくて、玉川上水とか三鷹の墓地に行くこともありました。

テレビの世界で働くようになって、様々な番組に携わってきましたが、不思議と料理に関連した番組が多かったんです。そこで今回はうんちく話あり、料理人の物語ありと本のテーマこそ違いますが、料理関連本のベスト10を選びました。

1位の『』は、僕が最初に書いた小説『ラストレシピ』のネタ本。二人の主人公の内の一人が天皇の料理番ですから、まさに著者の秋山徳蔵さんがベースになっています。

 

フレンチの鉄人の石鍋裕さんが「誰を尊敬していますか?」と聞かれた時に「秋山徳蔵」と答えていたので、ずっと秋山さんのことは気になっていたんですよね。

秋山さんは、半世紀以上にわたって昭和天皇の台所を預かった初代厨司長なんですが、宮内省大膳寮という閉鎖された中でも料理を楽しんでいて、まるで家庭料理を作っているみたいに天皇の料理を作ってしまう。

好奇心旺盛で、料理に対する知識も探求心もすごいんです。読み終わった時、彼から日本のフレンチの夜明けが始まったんだなあとつくづく思いました。

2位は『天国と地獄のレシピ』。料理人の本ってたいてい立派なことしか書かれていないものが多いんですけど、この本はその真逆の内容で自分の恥ずかしい部分をすべてさらけ出してる珍しい本です。僕が演出を担当した『料理の鉄人』にも登場してもらったのでよく知ってますが、山田宏巳さんは、本に書かれてある通り本当にいい加減でだらしないんですよ(笑)。

でも、そんな人がいい料理を作るんですね。やっぱり料理ってちょっと艶っぽくないとダメじゃないですか。真面目にレシピ通りにやっている人ではそういう料理は作れないんですよね。

料理人の修業時代って、「見て盗め」的なことをよく言われますけど、山田さんはその辺にこだわりがなくて、弟子にみんな教えちゃうんです。多分、自分の料理にすぐに飽きてまた新しいものを生み出していくから人に教えても損だなんて思わないんじゃないかな。

だらしないというか、何でもいいよいいよって投げ出しちゃう。そこが僕らテレビ屋と同じ人種って感じがするからすごく気が合いますね。

日本料理のバイブル

3位はコミックになりますが、『沈夫人の料理人』。食べることを至上の喜びとする沈夫人にその腕を買われた天才料理人・李三が、彼女の無理難題に応えるべく日々必死に料理を作るという物語です。

要求が困難であればあるほど、料理の腕は真価を発揮するという李三は、言うならばドM料理人。対するドSの沈夫人ですが、彼女が美味しい料理を食べた時のリアクションがたまらなくいい。ジュワァーっとおいしさが浸みているって感じが伝わってきます。

4位は『吉兆 湯木貞一』。湯木さんは山田さんとは真逆でクソ真面目な人。女性に関しても、奥さんを亡くしても後添えをもらわずに奥さん一筋でしたし、きちんと修業をして日本料理の基礎を作った人でもある。今は当たり前なことも、その原点は吉兆にあることがよくわかります。