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“ぶっ壊し屋”トランプ勝利は本当に「エリートの敗北」だったのか
プラグマティズムから読み解く

大パニックの投票当日

世界をアッと驚かせたトランプの歴史的逆転勝利。その直後に私はネット上にこんな趣旨の投稿をした。

トランプの逆転勝利の裏には、アメリカに伝統として根付く反知性主義の影響が垣間見られるが、他方アメリカにはもう一つの思想的伝統であるプラグマティズムが存在する。

今後のアメリカの動向を危惧する声は多いものの、相互依存が進むグローバル社会でプラグマティズムが機能するとき、極端な行動をとることは論理的に不可能だろう。過度に警戒するのではなく、冷静にアメリカ人のホンネを分析していく必要がある

まさに選挙結果が判明したばかりのタイミングの投稿だったので、多くの人たちはどうしたらいいのかとパニックに陥っていた。

投稿を日本語と英語の併記で行ったこともあって、何人かのアメリカ人からも反応があり、彼らもまた動揺している様子を隠さなかった。

そこで少し時間がたって冷静になったこともあるので、このへんで彼らのホンネを分析してみたいと思う。いわば私の専門とする政治哲学から読み解く、トランプ勝利の要因についてである。

待ちわびたカリスマの登場

まず冒頭でも触れた反知性主義についてだが、これはピューリッツァー賞を受賞したジャーナリストのリチャード・ホフスタッターが、『アメリカの反知性主義』によって明らかにした思想である。ただ、これを政治哲学と呼ぶのは少し語弊があるようにも思われる。むしろ宗教にも似た生き方そのものといったほうが正確かもしれない。

というのも、もともとこの思想は、イギリスから受け継いだ極端な知性主義としてのピューリタニズムを否定し、それに対する反動としてのラディカルな平等主義ともいうべき信仰復興運動をベースに生まれたものだからだ。

彼らは教会の権威を恐れることなく、自分で聖書を解釈して信仰の確信を得ようとした。それが個人の力を基礎としたアメリカの民主主義に大きな力を与えてきたといっていいだろう。ところが、他方で知性主義は、独善性を生み出す要因にもなっている。権威に頼らず自分で判断するということは、主張の客観性を欠く原因になるからだ。

そうした独善性が集合となって現れるとき、ポピュリズムを招来する。

 

ポピュリズム(大衆迎合主義)とは、不満をもった大衆から共感を得られるようなレトリックを駆使することで、政治家自らが望む変革を実現するカリスマ的な政治スタイルを指す。今回のトランプの勝利の背景には、「1%の富裕層と99%の貧困層の対立」と表現されるように、拡大する格差の中で取り残された白人労働者たちの不満が指摘されている。

その不満の矛先がいわゆるエスタブリッシュメント、つまり既得権益を持った一部の人たちに向けられた瞬間、ポピュリズムと化して一気に広がったのである。後はもう受け皿となるカリスマが現れるのを待つばかりであった。そこにトランプが登場したわけである。

トランプはポピュリズムのセオリー通り、「強いアメリカを取り戻す」「アメリカ・ファースト」といった大衆受けする過激でわかりやすいレトリックを繰り返し、真のカリスマとなっていった。そこでは、もはやリベラル対保守といった教科書的な対立図式は影を潜めてしまったかのよう見えた。

そう、アメリカには本来民主党対共和党、つまり各々の政党を支えるバックボーンとしての政治哲学、リベラリズムと保守主義があったはずである。