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政治政策
知っておきたい「一票の格差」論の正体
そもそも選挙は住所で分けるべきか?

票の格差、権力格差、経済格差

前編で見てきたように、「一票の格差」は要するに、ただ無闇に票の価値の平等だけを求め、選挙が引き起こす誤作動を未然に防ぐための選挙枠などは無用だと主張していることになる。

それに対して地域枠を設けるのは、これが廃藩置県以前の幕藩体制下における各地域の自治を――それなりに――尊重し、地域単位ごとの意見の分布を国会に持ち込もうという配慮による。

とともに、選ばれた代表としての議員が、自分を選び投票した人だけでなくその地域全体の人々の代表として国政に参加し、マジョリティもマイノリティも含めて国民が納得する政治を遂行する義務を負っているということを担保するものでもある。

地域枠を失えばそうした義務は雲散霧消する。なぜなら、各選挙区内の意見分布くらいなら1人の代表でつかめるとしても、国民全体の意見分布など把握できるような人はどこにもいないからである。

そしてこの分析が正しければ、現在の一票の格差が生まれたのは次のようなプロセスによるのだということも分かる。

投票の際に、せっかくこうした地域枠を設けているにもかかわらず、それでもなおその枠を超えて人々が地方から中心へと、より人の少ないところから多い場所へと流れ込み、本来はそれほどのものではなかった地域間の人口格差が大幅に進んでしまった──。

周辺から中心への人口の流入が、一票の格差を生んだ原因である。では、なぜ自分の持つ投票する権利が薄まるのにもかかわらず、それを承知してこれほどの人口移動が生まれたのか。

それは、票の格差とは全く逆の方向に向けて、権力の格差、経済の格差が生じており、その格差を埋めるために人々はより権力の強い地域へと、より経済力のある地域へと移動していったのだということに他ならない。

すなわち経済力が弱く権力が寡少な地方/農村から、経済力があり権力が強い中央/都市へと人々が移行し、そのことによって低位の地方/農村に対する高位の中央/都市とが現れたのである。そしてこの人の移動によって票の格差は逆に現れ、より低位の地域により強い票の力を残したのだと言うことができる。

一票の格差論の正体

そうすると、地域枠が設定され続けていることによって、こうした格差の進行をなんとかして食い止めているということになる。にもかかわらず、この行き過ぎた権力格差、経済格差をさらに拡大させ、より人口が集まっている中心への権力の一極集中を進行させようという動きが一票の格差論の正体だと言わなければならない。

一票の格差是正はこうして、基本的にはより弱い者をより低位に移行させ、より強い者をさらに強い者へと移行させる動きに同調するものだから、要するにより上位の層によるさらなる格差拡大の動きであるのだから――都市中間層においてもこの動きは阻止しなければならない。

しかし一見、平等という論理で示されているので、その正体が分からずに、多くの中央・都市の一般の人々がこの一票の格差論に賛同する羽目に陥っている。

一体、その背景には何があるのだろうか。

中央・都市でもこの十数年のうちに非常に大きな経済格差が、そしてそれに伴う権力格差が生じてしまった。

今年(2016年)9月に厚労省が所得再配分調査報告書を発表したが、所得格差の代表的指標であるジニ係数が0.5704と依然高く、かつ平均所得額が減少しており、この格差と貧困化は首都圏内部においても無視できないものとなっている。

これを年金を含めた社会補償で改善しているが、都市中間層の一部が下降し、下層は貧困化して、限度を超えた格差の出現は誰の目にも明らかなものとなっている。この時、中央・都市の中間層が本来求めるべき道は、中央・都市の内部にもはっきりと現れてきた経済格差・権力格差を是正することであるはずだ。

それに対し、地域間の票の重みの格差に議論が集中していったのは、問題の本当の構造を捉え損ない、むしろ地方や農村が自分たちの足を引っ張るから、自分たちの暮らし向きが悪くなっていると認識されていったからに他ならない(ただし筆者は自然にそうなったというよりも、そう仕向ける動きがあったように感じる)。

経済格差がもたらした暮らしの悪化という状況において、ある種のスケープゴートとして地方が持っている既得権益が狙われたと解釈することができる。

だが、一票の格差はそもそも地方から中央への過剰な人口移動から生じたのだから、この問題を解消する適切な手段は、中央から地方へと人々が戻り、適切な人口バランスへともう一度回帰することだということになるはずだ。

そして人々は、そもそも票が持つ権利が軽くなることが分かっていて移動したはずなのに、なぜ今になってその権利をこちらによこせなどと言うのかと、地方の側はしっかりと反論しなくてはいけない。

このことが、今この国の危ういバランスを保つために必要なことなのである。